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JUAS 企業IT動向調査報告書2021から今を読む その4

松田 幸裕 記


新型コロナウイルス感染拡大が収まらず、東京都に対し4度目の緊急事態宣言が発出されることになりました。ワクチン接種が広範囲に行われるまでは、このどうにもならない状況を打開することは難しそうです。

私から見ると、緩んでしまう国民、それらをコントロールできない政府は加害者で、コロナ関連の医療関係者、しっかり対策を講じて営業している飲食店、そして夢であるオリンピック・パラリンピックを批判されている選手たちは被害者だと思います。野党は五輪中止を主張していますが、どうかオリンピック・パラリンピックの選手たちの顔を思い浮かべ、何が正しいのかを再考してもらいたいと願うばかりです。

コロナ禍、大雨による洪水や土石流、熱波、、、なんだか地球が壊れていっている気がします。そして、地球を壊しているのはおごり高き私たち人間です。地球にやさしく生きていくために私たちは何をすべきか、損得ではなく善悪でしっかり問題に向き合って考えないといけない、そう思う今日この頃です。

本題に入ります。前回までの投稿「JUAS 企業IT動向調査報告書2021から今を読む その1その2その3」では、JUAS(一般財団法人 日本情報システム・ユーザー協会)から公開された「企業IT動向調査報告書 2021」より、経営課題にまつわる傾向、セキュリティ、そしてアプリケーションについて考察しました。本投稿ではさらに視点を変えて、データ活用について考えてみたいと思います。

データ活用に期待する効果が得られているのは約3割の企業

「データ活用に期待する効果の実現度」というアンケート結果があります。データを活用している企業の中で、期待する効果が得られているかを聞いたものです。それによると、データ活用に期待する効果が得られているのは約3割の企業のみだそうです。その理由は何なのでしょうか?

データ活用に期待する効果の実現度

いろいろな側面があるかもしれませんが、私が強く感じるのは「思考と行動のサイクルが回っていないためではないか?」というものです。

「サイクル」というと日本ではPDCAサイクルが有名ですが、データ活用におけるサイクルはどちらかというとOODAループの方が説明しやすいため、OODAループを基にしてどのような思考・行動が行われるべきで、その中でどのようにデータ活用が行われるかを見ていきたいと思います。

OODAループとは?

OODAループは、アメリカ空軍のジョン・ボイド大佐により提唱された意思決定理論です。元々は航空戦に臨むパイロットの意思決定を対象としていたもので、それが経営理論などにも応用されたものとなります。ループの中では以下の要素を順に行い、これを繰り返します。

  • Observe(観察):収集したデータなど、意思決定に関連する対象となるものを観察します。
  • Orient(状況判断):観察した結果を基に、状況を判断します。
  • Decide(意思決定):状況の判断結果を基に、何を行うかを決定します。
  • Act(行動):決定したことを実行に移します。

また、以前「米軍式 人を動かすマネジメント──『先の見えない戦い』を勝ち抜くD-OODA経営」を読んだことがありますが、そこでは「ミッション・コマンド」が重要であると書かれていました。まず最初に、指揮官が「作戦計画の大枠」を示すというもので、「何のために行うのか」、「どのような方針をとるのか」などを明確にし、その後のOODAループでの行動については「自主的な行動」を許容します。これを、先頭に「Design」を置いて「D-OODA」と名付けています。

D-OODAから見る、一般的なデータ活用における課題

データ活用は、ただ活用すれば効果が出るというわけではありません。観察し、何が起きているのかを見極め、何を行うべきかを決め、実行に移すというサイクルの中でデータが適切に活用されてこそ、効果が出ます。この思考、行動の結果として、「需要が多い時は価格を上げ、需要が少ない時は価格を下げる」などをデータを使って自動化する仕組みなど、更なるデータ活用も生まれてきます。

しかし、現実には「PDCAに基づき計画から始まるが、実行後の振り返りがない」という場面は多く、データも十分に活用されない組織が多いのではないでしょうか。

また、組織を構成する人達の多くに「決めるのは自分じゃない」という姿勢も見られます。以前ある企業の課長レベルの人と会話した時のことです。


私:「その課題をこういう方法で解決するのはどうですか?」
課長:「でも、決めるのは私ではないので…。」
私:「それでは、意思決定権のある人に提案するのはどうですか?」
課長:「提案なんて…滅相もない。」

「決めるのは上の人」、「我々は上の指示に従って動くだけ」という意識ではOODAループは回らず、データ活用もされないでしょうね。

D-OODAから見る、新型コロナウイルス対策における課題

一般的な企業における課題と少し異なる部分もありますが、皆さんが接している問題である新型コロナウイルスについて、D-OODAの視点で主な課題を考えてみます。

まず、最初のD(Design)が無いことです。昨年4月に投稿した「新型コロナウイルス対策をデータドリブンの側面で考える その1」の冒頭で書きましたが、昨年2月後半の「この1~2週間が瀬戸際」と言って行動の自粛を求めた時から、長期戦をどう戦うかという方針が見えませんでした。日本としての納得感のある方針が見えないままで、自治体も、企業も、個人も、バラバラにその都度判断して動く結果となりました。最初のD(Design)が無い状態でOODAを回したというイメージですね。

さらに、「適切なデータが無いのに、あると思っている」という点も大きな問題だったと思っています。昨年5月の投稿「新型コロナウイルス対策をデータドリブンの側面で考える その2」ではデータが足りていないことを示しました。しかし、「「with/after コロナ」におけるワーク・フロム・ホームを考える その5」の冒頭で書きましたが、「今見えているデータがすべて」と思ってしまう性質が人間にはあるように思います。OODAのO(Observe)でデータが足りなければ、上質の意思決定にはつながりません。データは生み出せるものだという認識を持つ必要があると感じています。

冒頭で触れた「データ活用に期待する効果が得られているのは約 3 割の企業」のグラフを見ると、「効果測定中」が5割ほどを占めていることも興味深いです。本当に「測定中」であればよいのですが、もしかするとデータを活用するという計画と実行で止まっている可能性もあります。このような状況を脱するには、単にデータを活用するのではなく、データ活用にまつわる思考や行動を全体的に変えていくことが重要と思っています。