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JUAS 企業IT動向調査報告書2021から今を読む その1

松田 幸裕 記


5月末を期限としていた緊急事態宣言が、またもや延長されました。2週間強で終える計画が、気が付けば約2か月間の宣言となっています。ただ、もはや驚きはなく、「この対策内容では、そうなるよね…」と思っている人も多いのではないでしょうか。

新型コロナウイルスは人から人へ感染し、人の行動によって感染するかしないかが決まってくることを考えると、新型コロナウイルスの問題は自然災害などではなく人災です。ついつい緩んでしまう国民、それをコントロールできない政府や自治体、政策の粗探しをして失敗を助長するメディアなど、いろいろな要素が絡み合って今を形成していて、その被害は医療関係者や飲食業、非正規雇用者など一部の人々に集中してしまっているという構図でしょうか。オリンピック選手やその関係者なども、私から見ると被害者に思えます。

独裁的な体制を持つ中国ではワクチン抜きでも早々にコロナに打ち勝つことができ、民主的な体制の日本やその他の国々ではワクチン無しでこの人災を治めることができないという現実に、複雑な気持ちが芽生えます。人類が何かを試されている、そんな気がしてなりません。

今回も前置きが長くなりましたが、本題に入ります。JUAS(一般財団法人 日本情報システム・ユーザー協会)から、「企業IT動向調査報告書 2021」が公開されました。本調査報告書は、東証一部上場企業とそれに準じる企業(計1,146社)の IT 部門長に対し、アンケート調査を行ったものです。本投稿から何回かに分けて、それぞれの調査結果について考えてみたいと思います。

日本はついにITによる効率化を卒業したのか?

「IT投資で解決したい中長期的な経営課題」のアンケート結果で、例年にない傾向が見えています。今までは「業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)」がトップだったのですが、2位に落ちました。(「短期的な経営課題」では今もトップですし、上位にいることに変化はありませんが。)

IT投資で解決したい中長期的な経営課題経年変化(1位)

以前の投稿「IT人材白書2020から今を読む その1」で、日本におけるITへの期待は効率化に偏っていること、この点においては日米で傾向が異なり、米国では製品・サービス開発やビジネスモデル変革を重んじていること、などについて触れました。効率化を主の目的としてITを活用し続けてきた歴史が長いだけに、今回のアンケート結果で僅差であるものの順位が入れ替わったことは、大きい変化かもしれません。

増加しているのは「ビジネスモデルの変革」

今回のアンケート結果で「業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)」を抜いてトップに立ったのは「迅速な業績把握、情報把握(リアルタイム経営)」です。しかしこの回答が増えたわけではなく、「業務プロセスの効率化」の回答が減ったことで結果的にトップに立っただけのようです。

では、「業務プロセスの効率化」の回答が減った分増えているのは何かというと、「ビジネスモデルの変革」、「働き方改革(テレワーク、ペーパーレス化等)」、「セキュリティ強化」です。このあたりから考えると、、、昨今のコロナ禍やセキュリティ脅威の増大に絡んで、「ビジネスモデルを変革しなければ」、「働き方を変えなければ」、「セキュリティを強化しなければ」などの思いが強くなり、一時的にこのような結果になっただけかもしれませんね。

どのような経緯であれ、効率化以外に適切に重要度が分散されることは望ましいと思います。これを機に、ITの最適化が進むことを願っています。

売上規模による経営課題の違い

一つ興味深いアンケート結果のグラフがありました。「売上高別 IT 投資で解決したい中長期的な経営課題」というもので、先ほどの「IT投資で解決したい中長期的な経営課題」のアンケート結果を企業の売上規模別で見たものです。

売上高別 IT 投資で解決したい中長期的な経営課題(1 位)

これを見ると、売上規模が1兆円以上の企業では「ビジネスモデルの変革」が高く、「業務プロセスの効率化」は低い値となっています。一方で売上規模が100億円未満の企業では、「ビジネスモデルの変革」が低く、「業務プロセスの効率化」は高い値となっています。

日本では今も効率化に偏っていると書きましたが、企業規模で見ると一概に「日本では」として括れない結果であることがわかります。

この事実を受けて、単純に「ITに十分な投資ができる大企業は、効率化以外へ投資する余裕がある」と言ってしまうと、短絡的かもしれませんね。安価に賢くIT投資を行うことも可能なはずです。難しいのかもしれませんが、少ないIT投資でも効果を出せると信じたい、そう思っています。