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新型コロナウイルス対策をデータドリブンの側面で考える その2

松田 幸裕 記


新型コロナウイルスにおける緊急事態宣言が延長されました。5月末までとのことですが、政府としてその先にどういうストーリーを描いているのかがわからず、いつまでこの身を削った自粛を続けていけばいいのかが見えないため、国民の苛立ちも募っている状況です。
 「新型コロナウイルス対策をデータドリブンの側面で考える その1」に続き、コロナウイルスに関連してIT屋として感じるいくつかのトピックに触れてみたいと思います。

問題解決のためのデータの重要性

私たちは日々の仕事や家庭での生活の中で、多くの問題解決を行っています。大小さまざまな問題解決がありますが、概ね以下のような流れで行われます。

問題の定義 → 原因の特定 → 解決策の立案 → 解決策の実行・評価

この流れのそれぞれのフェーズで、データはとても重要なものとなります。例えば、「家庭での出費が多いようなので抑えたい」と思った時、収入と支出の総額すらわからない状態では、そもそも現状問題があるのかがわかりませんし、家計簿やクレジットカード利用明細などがない状態では、どこで多く出費しているのかという原因がわかりません。また、「エアコンの温度設定を見直す」という対策を行った場合に、その効果がわかるのは改善後の電気代という形でデータが明確になる2~3か月後ですが、もし事前に「電気代の内訳」が可視化されていれば、より精度の高い対策が実施可能になります。

新型コロナウイルスにおいての問題解決について考えてみたいと思います。
 「問題の定義」のフェーズとしては、日々の新規感染者数、重症患者数、死者数、実効再生産数、PCR検査数、空き病床数などのデータにより問題を把握することが可能です。感染時期と感染確認の時間的ギャップが1~2週間あり、新規感染者数や実効再生産数が遅れて確認されることは大きな問題ですが、今のところこれを埋める策が無いようなので、現存するデータを使うしかないでしょう。また、PCR検査が不足しているという問題もありますが、問題を大枠としてとらえるための最低限の数値は出ていますし、検査数が多い国でも「抗体検査をしたら既に感染していたことがわかった」など把握の限界も見られていますので、完全性を求めるときりがないかもしれません。
 極端な話、もし国民全員が毎日でも感染を検査できるキットなどができたら、新コロナウイルスは全く怖いものではなくなります。インフルエンザと違って新コロナウイルスが怖いのは、症状が無い状態でうつしてしまうことですが、症状が無い状態で検査を頻度高く行えれば、感染を広げる前に対処できるからです。ワクチン開発よりこのようなキット開発の方が現実解かもしれない、と素人考えで感じたりもしますが、今のところはこれも求めすぎですね…。

問題は、「原因の特定」と「解決策の立案」です。「飛沫」と「接触」による口や鼻や目の粘膜を経由して感染することはわかっていますが、それ以上のデータが乏しいことは、大きな問題です。
 例えば、症状が出ているのに東京都から山梨県へ移動して多くの人と会い、感染確認後に高速バスで東京都へ戻ってしまい、しかも虚偽報告をして多くの批判を浴びた女性の行動履歴がメディアで公開されていました。あの1個のデータを見る限り、3日間にわたり濃厚接触していた男性には感染したものの、それ以外の人には感染しなかったようです。これが1個のデータでは判断が難しいですが、このようなデータをたくさん採取できれば、「どのような人がどのような形で感染する場合が多いのか?」なども見えてきますし、「実はこういう行為は感染する確率は低い」なども傾向として見え、戦い方もわかってくるはずです。

  • 感染者は感染前にどのような行動をしていたのか?(自身にうつる要因の傾向を分析)
  • 感染者は感染したと思われる時期から入院するまでにどのような行動をとり、どのような形で感染させたのか?(自身がうつす要因の傾向を分析)
  • 感染者の職業は?最近の働き方は?(自身にうつる、自身がうつす要因の傾向を分析)
  • 子供は感染させにくいという話があるが、子供が先に感染して家族に移す例は多いのか?(子供からうつる可能性を分析)
  • 感染者は感染したと思われる時期に、(発熱、味覚、嗅覚などの他に)何か変化はなかったか?(感染を早期に検知する方法の模索)

韓国のように行動履歴をデータとして採取はできていませんが、1万5千人以上の感染した人からのヒアリングだけでもある程度の統計データにはなるでしょう。アンケートアプリなどの仕組みをつくっておけば、新たな仮説が出てきた際にも容易に感染経験者への追加アンケートができます。さらに、気温・湿度・紫外線量とコロナウイルスの感染との関係など、各研究結果も合わせて分析することで、突破口も見えやすくなるかもしれません。
 最近「出口戦略」というキーワードで自粛を解除する基準にフォーカスが当たっていますが、解除後の現実的な生活様式を導き出せて初めて「出口戦略」と言え、そのためには上記のような根拠となるデータが必要です。緊急事態宣言解除や自粛要請解除の基準が出されても、次は「で、解除後はどういう行動はOKになるの?その根拠は?」、「段階的に解除って、うちの店が再開できるのはいつ?基準は?」などの疑問や不満にフォーカスが移るでしょう。

今年の2月頃の「1~2週間が瀬戸際だ!」と言っていた時期、そしてその後緊張が緩んだ3月中旬の時期を覚えていますか?
 あの頃のデータを見てみますと、日本全体で新規感染者数は1日で50名程度、東京都では10名程度でした。その段階から少しでも緩めば、たった3週間で1日の新規感染者数が700人にもなり、クラスター対策も破綻するレベルになるのです。この厄介な新コロナウイルスを相手に、経済を回しながらどう防御するのか、それを今までの統計データから考える必要があるのです。現状は「あれもダメ、これもダメ」という状況に陥っていますが、「この行動はOK」ということを示していく必要があります。その際、「こういう例があるから」という断片的な情報ではなく、ある程度以上の母数をもった統計データから、「こういう傾向があるから、この行動はOK」ということを示し、「こういう生活を過ごした場合の実効再生産数の予測は0.5」などを仮説として定義し、ロードマップを策定していく必要があると思っています。

 

違和感との向き合い方

5月3日、テレビ朝日の「TVタックル」に元厚生労働省医系技官であり医師の木村もりよ氏が出演しました。同じく出演していた東国原氏と激しく議論が行われ、その後のSNS等でも木村もりよ氏への批判は多く、かなり炎上しているようです。

まず、私も番組を見ていて感じたことは、彼女のけんか腰の姿勢です。自身の主張を受け入れてもらうためには、受け入れてもらう心理状況に持って行く必要があります。それができていたら、もう少し彼女の主張も受け入れられるのではないか、と感じました。
 同時に強く感じたのは、受け入れる側の姿勢です。上記のように木村氏の姿勢にも大きな問題はあると思いますが、受け入れる側も「違和感」と正しく向き合う必要があるのではないかと思うのです。
 人の意見においてもデータにおいても、違和感を嫌って排除してしまうと、自身の中で新たな気付きはなくなります。個人においても集団としての組織においても、違和感を排除せずいったん受け入れて理解する姿勢を持った方が気付きは増え、仮説が増え、分析も促進され、イノベーションの可能性も増えるのではないでしょうか。

参考までに、最近の木村氏の主張がわかりやすく書かれているページがこちらにあることを見つけましたので、共有します。公開されているデータが少なく、我々には何が正解なのか判断しづらいですが、こういう主張もあることを認識し、自分や組織の今後を考えてみたいと思いました。