· 

ITは雇用を創出するのか?雇用を奪うのか? その1

松田 幸裕 記


ここ数年、「AI」や「ロボット」など、人の代替となるような技術進化が急速に行われています。自動運転、レジのない商店、事務処理の自動化、機器点検の自動化など、従来は人間が行ってきた作業を自動化できるようになってきています。
 開発を進める人たちは「少子化の影響で、働く人が確保できなくなる。そのような時代に、これらの技術が必要なのです。」と、少子化の話を出すのですが、、、何かモヤモヤとした気持ちになります。

本当に、少子化によって働く人が確保できなくなるのでしょうか?
 技術進化によって、働きたくても働けなくなる人が増える心配はないのでしょうか?

確かに、少子化という事実、そして労働力人口の減少という事実はあります。
 平成26年版 情報通信白書に日本の労働力人口の推移(予測込み)が載っていますが、これによると1995年をピークに労働力人口は徐々に減少していきます。緑の帯は15歳~64歳の生産年齢人口であり、今後65歳以上で働く人も多くなると思われるため、この緑の帯の減少ほど急激ではないかもしれません。ただ、労働力人口が減っていくことは確かでしょう。

しかし、もう一つの観点として、必要となる雇用が減っていくという可能性もあります。
 英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が、「今後10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高い」という分析結果を発表しました。グローバル化によって賃金の低い国に仕事を奪われるだけでなく、ITも雇用を奪おうとしています。

平成27年版 情報通信白書に「情報化投資の雇用に与える効果の推定値」が載っています。これによると、2005年から2030年にかけて、情報化投資によって創出される雇用は55万人、情報化投資によって奪われる雇用は149万人となっており、100万人弱の雇用が奪われることになります。

上記の推定値の信憑性はわかりませんが、一人のIT屋として、ITは必要以上に雇用を奪うものであってほしくありません。
 以前の投稿「データドリブン経営の実現にむけて その3」で厚生労働省の「過労死等防止対策白書」の情報を紹介しました。この資料(4.自殺の状況)を見てみると、全自殺者の半分以上は無職者であることがわかります。雇用を奪われることは人間にとっての死活問題です。
 前述した情報通信白書に、ITが与える雇用への影響として「雇用の減少」と「雇用の増加」があると書かれていますが、新たに雇用を生むようなITであってほしい、あるいは、「離島へのリモートでの医療支援」「人間が入れない危険な場所での作業」「森林で迷子になった人の夜を徹した捜索」など、人にできないことを補い、人を助けるITであってほしい、そう願っています。