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ITは雇用を創出するのか?雇用を奪うのか? その2

松田 幸裕 記


前回の投稿「ITは雇用を創出するのか?雇用を奪うのか? その1」において、ITが少しずつ人間の雇用を奪っている現状について述べました。
 本投稿では、「雇用を奪うIT」についてもう一つ、「グレート・デカップリング」というキーワードについて触れたいと思います。

これによると、経済の健全性を測る四つの指標である一人当たりGDP、労働生産性、雇用の数、家計所得は第二次大戦後30年以上、どれも着実に、ほぼ足並みを揃えて上昇してきたのですが、1980年代になってそれが崩れてきているそうです。所得の伸び悩みが始まり、雇用の伸びも減速しているとのこと。GDPと生産性が表す経済的豊かさは上向きなのに、労働者の所得と雇用は減速しているという現象を「グレート・デカップリング」と呼び、その要因の大きな一つが技術進化だと論じています。

確かに、危険な兆候だと思います。
 労働者の所得や雇用が減速していけば、そのような状況下にある人の(顧客としての)消費も減っていき、経済成長も減速するでしょう。そして企業は更に人減らしを推進し、、、という形で、一部の富裕層を除いて多くの人たちは負のスパイラルに陥る可能性もあります。

トマ・ピケティ氏は著書「21世紀の資本」で、富がごく少数の高所得者に偏っている現状に警告を発しています。そして即効性のある対策として累積資本税を、長期的な対策として教育を挙げています。
 累積資本税は、富の再分配が目的ですね。たんまりため込んでいる人からお金を取り上げて、公共サービス等を介して平等に分配するという仕組みです。
 教育は、人の力の底上げを行い、能力の格差を小さくすることで貧富の格差も小さくしていくという考え方ですね。
「雇用を奪うIT」という問題自体を解決するための一つの考え方として、ITに雇用を奪われないくらい人の力を鍛えることが重要と言えます。トマ・ピケティ氏が書かれているように、短期と長期で並行して対策を進めていく必要があると感じています。

「技術は雇用を破壊する」という事実は、今に始まったことではありません。しかし、グレート・デカップリングという現象が出ている今、ITの未来、方向性を真剣に考えないといけないのではないでしょうか。