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「情報通信白書 令和3年版」から今を読む その5 ~働き方の変化と生産性~

松田 幸裕 記


コロナ感染者数が減少し、飲食店への営業時間短縮も解除されました。私はこの1年以上飲みに行っていなかったため、夜の街がどのように変化しているかわかりませんが、ニュースや情報番組を見る限りでは活気が出てきているように思います。またレジャーなども回復傾向にあるのではないでしょうか。

一方で、少しずつコロナ感染者が増えているように思えます。海外での状況などを見る限り、ワクチン接種が進んでも一定以上の感染対策をしていなければ、感染は拡大するようですので、現在の日本での感染者数微増は不思議なものでもないですね。「実効再生産数が1を超えない活動」を見出し、それを維持できれば感染者数が低い状態での生活を継続することは可能だと思いますが、十分なデータが採取できておらず先日の感染者数減少の理由もわからない状況ですので、これも難しそうですね。

「新規感染者数の変化に一喜一憂すべきではない」という人もいますが、今のところはこの数字が最も早いタイミングで状況をつかめる指標だと思いますので、引き続きこの数字の変化を注視していきたいと思います。

本題に入ります。前回までの投稿「「情報通信白書 令和3年版」から今を読む その1その2その3その4」では、総務省より公開された「情報通信白書 令和3年版」を題材にして、日本におけるデータ活用やITへの向き合い方などについて考察しました。前回までの投稿でも書きましたが、本編は400ページを超えるボリュームで、貴重な内容がたっぷり詰まっています。また、情報通信を俯瞰して眺めたうえでの深い洞察もされており、とても勉強になるため、ぜひ本編を読んでみることをお勧めします。

本投稿では、この情報通信白書からいくつかのポイントをピックアップし、働き方の変化と生産性について考察してみたいと思います。

米国の在宅勤務実施者に対して、職場勤務と比較した場合の在宅勤務の生産性について尋ねた結果のグラフがあります。

米国の在宅勤務の生産性

これを見ると、「職場勤務と同じ」との回答が43.5%、「在宅勤務の方が効率的」との回答が41.2%、「職場での勤務の方が効率的」との回答が15.3%となっています。全体的にテレワークにおける生産性が高いという結果になっています。

以前の投稿「JUAS 企業IT動向調査報告書2021から今を読む その5」で、日本におけるテレワーク実施者の生産性の変化についてのアンケート結果に触れました。これによると、テレワークによって「生産性が向上する」が概ね10%、「生産性は低下する」が概ね40%、「変わらない」が概ね50%となっていて、米国と日本では真逆の結果になっているようです。とても興味深いデータですね。私自身が見聞きしてきたつたない経験から、この違いについて考察してみたいと思います。

役割とゴール

米国の場合、それぞれのメンバーの役割とゴール(目標、ノルマなど)が明確化され、達成状況を示すデータが逐次確認されますが、細かい進め方などは各個人に任されていることが多いように思います。達成状況が思わしくない場合には細かい進め方にまで周囲から指摘が入ることはありますが、基本的には進め方については個人に任されると思います。自身のゴールに向けて進めていくうえで、必要に応じてメールやチームコラボレーションツール、Web会議など各種ツールを利用してコミュニケーションをとって効率化を図ります。

一方、日本の場合は米国と比べて進め方についても「合意」や「お伺い」が必要なことが多いように思います。役割分担が不明確なためかもしれませんが、あることを進めるために周囲にお伺いを立て、上司にお伺いを立て、さらにその上司に…という形で、進め方における細かい意思決定に必要なコミュニケーションが多い気がしています。物理的な対面でのコミュニケーションが制限されることの影響を受けやすい働き方になっているのかもしれません。

コミュニケーションツール利用

この部分は米国でどのような状況かわかりませんが、日本では例えば以下のように、コミュニケーションツールの使い方が最適化されていないように思います。

  • 「メールには返信しなくても許される」、「2~3日返信しないのは当たり前」というような文化でメールを利用している。その感覚はチームコラボレーションツールにも受け継がれている。
  • Web会議では顔を見せない。

これらの要因により、物理的な対面でのコミュニケーションに比べてITによるコミュニケーションがより使いづらくなっており、それによってテレワークという環境での生産性が落ちている、という可能性もあると感じています。

Face to Faceの重要性は否定しませんが、昨今多く発生している大雨による洪水や土石流、熱波などの存在、都心への人口集中、育児や介護と仕事の両立などを考えると、やはり「いつでもどこでも」仕事ができる環境を実現させることの意味は大きいと思います。また、テレワークを今後もしたいという人は多いようです。求職者にとって魅力のある企業になるという意味も含め、「コロナ禍が落ち着いたから今まで通りに戻そう」ではなく、今後も仮説検証を繰り返し、最適な環境づくりをトライしていきたいですね。