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「情報通信白書 令和3年版」から今を読む その4 ~IT人材の偏り~

松田 幸裕 記


明日は衆議院議員総選挙ですね。

総務省のWebサイトに、国政選挙における投票率の推移が載っていました。これを見ると徐々に投票率が下がっていることがわかります。「政治への関心の低下」や「若者の選挙離れ」などいくつかの理由が言われていますが、、、ある意味、今は政治に無関心でいられるくらい平和を感じられているからかもしれませんね。

ただ、今は無関心でいられるかもしれませんが、気が付けば取り返しのつかない状況にまで日本が悪化している、という事態になる可能性もあります。そうならないためにも、一人ひとりに与えられた大切な一票、しっかり考えて使っていきましょう。

本題に入ります。前回までの投稿「「情報通信白書 令和3年版」から今を読む その1その2その3」では、総務省より公開された「情報通信白書 令和3年版」を題材にして、日本におけるデータ活用やITへの向き合い方などについて考察しました。前回までの投稿でも書きましたが、本編は400ページを超えるボリュームで、貴重な内容がたっぷり詰まっています。また、情報通信を俯瞰して眺めたうえでの深い洞察もされており、とても勉強になるため、ぜひ本編を読んでみることをお勧めします。

本投稿では、この情報通信白書からいくつかのポイントをピックアップし、IT人材の偏りについて考察してみたいと思います。

日本におけるIT人材の偏り

白書の中に、「主要国におけるICT人材の配置」がグラフで表現されています。

主要国におけるICT人材の配置

他国と比較して、日本はユーザー企業よりIT企業の方にIT人材が偏っている、というデータです。このことは今までも言われてきており、以前のブログ「2021年、ITを俯瞰する その1 ~SIerの衰退は今後進むのか?~」でも考察しています。

経済産業省が2018年に公表した「DX実現シナリオ」に書かれていますが、日本としてはIT内製率を増やし、このIT人材の割合を2025~2030年には5:5にしたいようです。しかし、日本の雇用制度が大きな壁として立ちはだかり、簡単にはこの割合を変えることはできないでしょう。海外ではプロジェクトが始まる時に雇用により人員を増強し、プロジェクトが終われば人員を解放するというやり方が可能という話を聞きますが、日本の法制度の下ではプロジェクトが終わったからと言って容易に解雇することはできません。そのため、プロジェクトが始まるからと言って安易に雇用で人員を増やすこともできません。よって、多くのIT導入を外部に委託することになります。

偏りを無くすことが唯一の対策なのか?

そう考えると、日本の雇用制度が変わらなければこのIT人材の偏りも是正されず、IT導入も改善されないということになってしまいます。日本の雇用制度が変わるのを待っているのではなく、IT人材の偏りが是正されるのを待っているのでもなく、現状を受け入れたうえで改善できないものでしょうか。それを考えるには、まず「IT企業にIT人材が多いことが、なぜ問題なのか?」を理解する必要があります。

こちらも以前の投稿「ITの多重下請け構造は不滅なのか? その2」、「使われない機能がITに多く存在する理由 その1」などで触れたことがあるため、ここでは軽く触れるに留めますが、ユーザー企業からIT企業への請負発注に大きな問題があると感じています。ユーザー企業には「責任をもって導入してくれるIT企業へ請負で発注したい」という思いがあり、IT企業には「追加要望を避けるために上流工程で仕様をきっちり決めて導入へ進みたい」という思いがありますが、これでは理想的なIT導入は望めません。

お互いの覚悟と信頼によって改善は可能

例えば弊社では、ほぼすべての契約を準委任で締結しています。超上流から運用まで広い範囲でユーザー企業を支援しており、弊社にて導入まで行ってしまうこともあります。その際も「仕様をきっちり決めて請負契約」という手法は採らず、導入中に見えてくる課題やニーズが存在することを前提として準委任契約を結び進めています。これによって、ユーザー企業は「上流フェーズで要件を出し切らないと」というプレッシャーからも解放され、使われない機能を押し込むこともなくなりますし、IT企業も無用な壁をつくらず、本当に必要な機能を議論の中で吟味し、導入効果の高いITの導入に専念できます。

これを実現するためには、お互いの覚悟と信頼だと私は思っています。よって、最初は小規模な契約から始めて、その中でお互いの信頼関係を高め、そのうえで覚悟を決めて準委任でプロジェクトを進めていくという流れが必要と思います。お互いがお互いを信頼するだけの熱意や謙虚さなどが必要なため、簡単なことではないですが、こういう形もあることを認識し、ぜひトライしてみていただきたいと思っています。