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2021年、ITを俯瞰する その1 ~SIerの衰退は今後進むのか?~

松田 幸裕 記


コロナ禍で染められた2020年が終わり、2021年が始まりました。しかし、いきなりの緊急事態宣言…。適切な意思決定に必要なデータが不足したままで、「ハンマー&ダンスしか方法はない」というような空気の中、国民の緩みでダンスをし過ぎた結果の感染拡大ですから、緊急事態宣言という名のハンマーが落ちてくるのはごく自然な流れなのかもしれませんね。

緊急事態宣言の中で、要請に応じない飲食店の店名を公表するという話が出ていて、メディアでは「飲食店を悪者扱いするな!」という論調で語られています。私もそれには強く同意しますが、、、こういう強制力を持たせなければならなくなったのは、以前からメディアが「現状の法律の下では命令・強制じゃなくてお願いなんでしょ?」と痛いところをほじくってきたからではないでしょうか。私たちはその時々で変わるメディアの論調に惑わされず、どうすべきかを自分たちで考えないといけませんね。

新たな年が始まったことですし、一旦立ち止まって「今、ITで何が起きているのか?」を俯瞰してみたいと思います。本投稿では、「SIerの衰退は今後進むのか?」について考えてみたいと思います。

「技術進化」と「SIerの存在意義」の関係性

クラウド化、Software Definedなどの技術進化によって、以前のようにストレージやネットワーク機器、プログラミングなどの職人がいなくても、ITの導入が可能な時代になってきました。複雑な部分は内部に隠蔽され、全体として抽象化された形で扱うことができます。このような技術進化によって、ユーザー企業のIT部門でも自力で導入できるのではないか?というくらい導入の難易度は下がってきています。

このことから、以前から「クラウド化などが進むとSIerが不要になり、SIビジネスは衰退する」などと言われていて、一時期はこのことに危機感を持っていたIT屋も少なくなかったと思います。しかし、一時期確かに存在したこのような空気は、どこかに吹き飛んでしまっているように思えます。

ユーザー企業とIT企業のIT人材比率

クラウド化、Software Definedなど技術進化が加速し、ユーザー企業のIT部門が自力で導入できるようになり、SIerへの委託は徐々に減り…という流れが進んでいるとすると、IT企業の人材が減って、ユーザー企業の人材が増えているという流れが見えてもいいですが、、、IT人材白書を見る限り、IT企業とユーザー企業の人材比率はここ10年間、ほぼ変わっていないようです。逆に、若干IT企業の方がIT人材は増えているくらいです。

図:IT企業とユーザー企業のIT人材数推移
(各年度のIT人材白書の数値よりグラフ化)

IT人材比率が変わらない理由

経済産業省は2018年に公表した「DX実現シナリオ」で、このIT人材の割合を2025~2030年には5:5にしたいようです。IT導入をあるべき姿に持っていくために内製を増やし、その結果として5:5程度の比率が妥当という論理のようです。

しかし、私の周囲では、大きな変化は見えません。なぜでしょうか?いくつかの観点で考えてみたいと思います。

<ユーザー企業の人材難>

一部の大手企業を除いて、優秀なIT人材の確保に苦戦しているように思います。なかなか優秀な人材が確保できず、限られた人材で対応しているため、日々のトラブルや老朽化などの対応に追われてしまい、IT導入による効果もなかなか出せず、その結果人員増強の主張も通らなくなるという、負のスパイラルに陥ることも少なくありません。IT部門はユーザー部門との調整、ベンダーとの調整、社内への報告、それらにまつわる会議などで日々いっぱいいっぱいです。

<従業員数の変動が困難な日本企業>

海外ではプロジェクトが始まる時に人員を増強し、プロジェクトが終われば人員を解放するというやり方が可能という話を聞きますが、日本の法制度の下ではプロジェクトが終わったからと言って容易に解雇することはできません。そのため、プロジェクトが始まるからと言って安易に人員を増やすこともできません。よって、多くのIT導入を外部に委託することになります。

<年次予算と稟議の金額>

主に日本企業では、次年度が始まる数か月前に年間計画と必要なコストを定めます。そこで実施内容や費用を含め承認されなければ、次年度に費用のかかるプロジェクトを実施することは難しくなります。さらに、プロジェクトの前には稟議という日本独自の儀式がありますが、その額は年次予算策定時に承認された額を超えることは基本的に許されません。そして、当然ながらプロジェクトで実際に使われる費用は、稟議の額を超えないようにしなければいけません。このような流れのため、ユーザー企業のIT部門としては必要な費用を早期に確定する必要があり、さらに「その額の範囲内で責任を持って請け負ってくれるベンダー」が必要になります。

このような背景から、現状はユーザー企業としてはSIerという存在が必要なのです。上で挙げた要素は、簡単には変わりそうにありませんよね。そのため、SIerの必要性はしばらくの間はなくならないかもしれませんね。

次回以降、少しテーマを変えて「技術は進化しているのに、なぜSI費用は下がらないのか?」についても考えてみたいと思っています。


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  • 2021年、ITを俯瞰する その1 ~技術は進化しているのに、なぜSI費用は下がらないのか?~(近日投稿予定)