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「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を再考する その4

松田 幸裕 記


新型コロナウイルスの感染が広がる中ではありますが、オリンピックが始まりました。

私は以前からも書いてきた通り、選手たちが練習もままならないくらいの状況にならない限り開催は可能だと思ってきました。それ以上に、厳しい練習に耐え、厳しい競争を勝ち抜き、夢の場であるオリンピック・パラリンピックへの出場を実現させた選手たちを思うと、ぜひ開催してほしいと思っていましたので、逆風の中でも開催までたどり着けたことにホッとしています。

私はサッカーが好きで、オリンピックでもサッカーには注目していますが、どちらかと言うと男子より女子サッカーのほうが見たい気持ちが大きいです。女子サッカーは男子サッカーと比較してクリーンで、見えないところでユニフォームを引っ張り合ったりするようなプレイも少なく、見ていて気持ちが良いからです。この点において、男子サッカーも女子サッカーを見習ってくれるといいな、と思う今日この頃です。

本題に入ります。以前の投稿「「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を再考する その1その2その3」では、「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を考察しました。弊社では昨年4月以降テレワーク中心で業務を行ってきましたが、その中で以前の投稿で触れたいくつかの理論と関係する体験をしてきましたので、本投稿にて共有したいと思います。

株式会社beeliefでの働き方

弊社は元々「会社でやらなくていい業務は、どこでやってもいい」というスタンスで業務を行っていたため、コロナ禍でのテレワーク中心の業務にはさほど抵抗感がありませんでした。コロナ禍に入ってから、社内のミーティングはすべてWeb会議で開催していますが、特に不都合なく業務ができています。

少人数の会社であり、マルチチーミング体制により各社員間の関わりは多く、私も含め各社員同士は業務で週に2~3回ミーティングで顔を合わせています。しかし、物理的にはほぼ会っておらず、私自身それぞれの社員とは直近1年間で1回程度ずつしか会っていません。コロナ禍に入ってから入社した社員もいて、同じく週に2~3回ミーティングで顔を合わせていますが、私は彼らと物理的には1度も会っていません。

それでも、まったく不自由を感じていません。相手の顔を見ながら、必要に応じて資料を共有したり、ホワイトボードで図を描いたりして、直接会った時とまったく同じことができているためです。

弊社が支援しているお客様とも、同じような頻度でしか会っていません。実環境での検証が必要で、どうしてもお客様先に行かないといけない場合には訪問していますが、ミーティングは基本オンラインで実施しています。後述するように、お客様の中にはWeb会議で顔を見せない方々もいるため、時にはやりにくい場合もありますが、大きな問題なく物事を前に進めることはできています。

総合して、会社やお客様先への移動時間が不要になり、かなり効率化されています。もし今後、「また今までのように、『直接会ってなんぼ』の世界に戻ろう!」となった場合は、逆にかなりの非効率を感じるのだろう、、、と思い、少し怖さも感じます。

「伝達感」の重要性

以前の投稿「「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を再考する その2」で、「伝達感」について触れました。「伝達感」とは、双方が互いに情報を正しく共有できたと感じたか否かを示すものですが、顔を見せての情報伝達がチャットや声だけの情報伝達に比べて優れているのは「伝達度」ではなく「伝達感」である、ということが実験の結果で見えています。逆に、物事を伝える場合において、チャットや声だけの情報伝達の方が「伝達度」は高いという結果になっています。

以前の投稿ではこのような話をしましたが、実際に業務を行っていて改めて感じたのは、「伝達感」の重要性です。コミュニケーションには「話す側」と「聞く側」がありますが、重要なのは「話す側」が受ける「伝達感」であると思っています。

「伝達感」が「伝達度」に与える影響

私たちは何かを人に説明する際、自然に聞き手のしぐさや表情を感じとって、ごく自然に説明の仕方を変えています。相手の反応を見ながら「今伝えたこと、あまり理解されていない気がするので、少しかみ砕いて再度説明しよう」、「このテーマは興味津々のようなので、このテーマに関連する別の情報も追加しよう」、「あまり興味がなさそうなので、この話はさらっと終わらせよう」など、臨機応変に話の流れを変えることは多いと思います。

相手の顔が見えないと、相手が理解できているのか、興味があるのかがわかりづらいですよね。先ほどの言葉を用いると、「話す側」が「伝達感」を受けられないということになります。伝達感を受けられないことは、「話す側」からしてみれば恐怖です。私自身、時々昨今のIT動向などをお客様に説明することがありますが、「聞く側」がどういう思いで聞いているかわからないと不安になり、つい「余計なことは話さずに終わらせよう」と思ってしまいます。

その結果、「話す側」の説明は平たいものになり、相手によって最適化された説明にならないため、「伝達度」も低下することになります。「話す側」が「伝達感」を得られないことにより、話す内容は最適化されず、「伝達度」が下がる、という流れですね。

コミュニケーションを成立させるのは受け手

このブログを書いていて、昔読んだドラッカーの「マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則」に書かれている一説を思い出しました。

「『無人の山中で木が倒れたとき、音はするか』という問いがある。音は発生する。だが音を感じるものがいなければ、音はしない。音波は知覚されることによって音となる。コミュニケーションを成立させるものは、受け手である。コミュニケーションの内容を発する者、すなわちコミュニケーターではない。彼は発するだけである。聞く者がいなければ、コミュニケーションは成立しない。」

前述したような「伝達感」だけでなく、「話す側」のモチベーションも「聞く側」によって大きく影響を受けます。Web会議によるコミュニケーションの効果を最大化するために、「聞く側」の重要性を改めて意識し、会議に臨んでみることをお勧めします。