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「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を再考する その3

松田 幸裕 記


安倍晋三首相が昨日、辞任の意向を表明されました。テレビのニュースではこの話題で持ち切りとなっており、同日に発表された新型コロナウイルス感染症対策における今後の対応方針も陰に隠れてしまいましたね。

新型コロナウイルス対策の方針としていくつかのポイントが示されましたが、「重症化リスクの高い方々に医療資源を重点化」というポイントが、今後の方向性として大きいように思えます。全体としての明確な方向性、戦略的なものが示されていないため、解釈次第で変わりますが、、、気をつけながらも感染自体を受け入れ、重症化を防いでいくという方向だと解釈できます。

我々としても、今後必要なのは「重症化への対策」になってきそうです。感染をしないためにリモートワークを続けた結果、「コロナ太り」で重症化リスクを高めてしまっては本末転倒です。今一度、組織として、個人として、新コロナウイルスへの向き合い方を再考する必要がありそうですね。

今回も前置きが長くなってしまいましたが、本投稿では前回に続き、「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を考えてみたいと思います。前々回は、顔を見せた場合に必要なネットワーク帯域、カメラ映像を送る場合のネットワーク環境における工夫などについて触れ、前回は非言語コミュニケーションが与える正と負の影響について、「メラビアンの法則」や「伝達度と伝達感」などに触れました。今回も前回と同様、非言語コミュニケーションが与える正と負の影響について、別の観点で見ていきたいと思います。

トランザクティブ・メモリー・システムとは

以前の投稿「新型コロナウイルス問題から「働き方」を再考する その3その4」でも触れたトランザクティブ・メモリー・システム(TMS)が、本テーマにも深く関係するようなので、再度触れたいと思います。

組織力を高めることはどの組織においても非常に重要ですが、その一つの大きな要素が「組織の記憶力」であり、組織全体としてどれだけ知が蓄積されているかが重要とされています。その「組織の記憶力(知)」において重要なのは、組織の一人ひとりが同じ知識を記憶することではなく、組織内で「誰が何を知っているか」を知っておくことである、という考え方が「トランザクティブ・メモリー・システム(TMS)」です。個人に根付いた専門知識を組織が効果的に引き出すためのTMSが、組織の記憶力やパフォーマンスを高める効果があると、確認されてきています。

TMSについてわかりやすく説明されているものとしては、以前の投稿でも触れた早稲田大学大学院・ビジネススクール教授の入山章栄氏が著された「世界標準の経営理論」という書籍があります。興味のある方は本書籍を読んでみることをお勧めします。(以前ハーバード・ビジネス・レビューでも経営理論をテーマに連載されており、2015年12月号でも詳細に触れられています。)

「顔が見える・見えない」とトランザクティブ・メモリー・システムの関係

上記書籍には、TMSを高める条件は何かを調べるためのいくつかの実験結果について、触れられています。詳細は書籍を読んでいただきたいですが、簡単に言うと、「顔が見えるコミュニケーションは、TMSを高める」という結果が実験により導き出されています。メールや電話などよりも直接対話によるコミュニケーションの方が、また、会話はできるけれど顔が見えない場合よりも会話ができなくても顔を見ながらの筆談の方が、TMSを高めるとのことです。

これらの実験はWeb会議などリモートで顔が見える状況を想定していないため、Web会議でも本当にTMSが高まるのかは断言できません。ただ、顔が見えるコミュニケーションの重要性を示す一つの大きな要素であることは確かです。

前々回の投稿「「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を再考する その1」で、「ビデオを使用すると概ね1Mbps程度のネットワーク帯域を利用する」とラフに書きましたが、ZoomやTeamsでは誰かが資料や画面を共有するとビデオ画像はサムネイルになり、データ伝送量が少なくなるようにできています。データ伝送量が気になる場合は資料共有をしてビデオ画像をサムネイルにし、顔が見えるコミュニケーションによってTMSを高めるという方法もあると思います。

前回の投稿「「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を再考する その2」の内容と合わせて考えると、やはり相互の会話が生じる会議、ディスカッションなどの場では、顔を見せることのプラス効果は大きいと言えるのではないでしょうか。小さなことに見えて実は大きいことかもしれませんので、ぜひ、組織としての方針を考えてみることをお勧めします。