· 

「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を再考する その1

松田 幸裕 記


新型コロナウイルスの新規感染者数増大が止まりません。国からはテレワーク7割や時差出勤の要請が、そして感染が拡大している都府県では独自の休業要請などが発表されています。6月後半あたりからかなり国民の緩みが大きかったため、その反動が出てしまったのかもしれません。

以前から書いてきましたが、政府から長期戦のプランが一向に示されない中で、右往左往してしまっている状況が続いているように思います。「基準」「指標」などよりも長期戦の「プラン」「ストーリー」を示し、日本としてどうやって立ち向かうのか、心を一つにしていけたらいいのですが…。

最近「HER-SYS」という新型コロナウイルス感染症の情報把握システムがメディアで取り上げられていますが、そのシステムよりも、今まで感染者情報の把握と共有がFAXと電話で行われてきたことに、とても驚きました。各医療機関から情報を集めてデータベース化するだけなら、すぐに導入まで行えると思うのですが、、、HER-SYS自体は5月に運用を開始していたようですが、普及が遅れているようですね。

2年前、経済産業省から「2025年の崖」という恐怖をあおるキーワードで、日本ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)が遅れていること、このままでは大きな経済損失が生じてしまうことが警告されました。しかし、このコロナ禍で国としてIT活用できていない状況を見てしまうと、DX以前にまだまだやるべきことがあるように思えてしまいます…。

今回も前置きが長くなってしまいましたが、本投稿から数回に分けて、「Web会議で顔を見せること」のプラス・マイナスの影響を考えてみたいと思います。

Web会議の際、顔を見せていますか?

新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業で半ば強制的にテレワークが実践されました。組織は人の集まりであり、人と人との関わり合いが必要です。メールなど非同期なコミュニケーションのみでは業務が成立せず、リアルタイムのコミュニケーションの必要性は非常に高く、その中でも相手の顔が見えたり、資料を共有しながら会話できるWeb会議へのニーズが急激に増えています。

皆さんは仕事でWeb会議をする際、顔を見せていますか?私の感覚では、7:3くらいの割合で顔を見せない人の方が多いように思えます。人によって意見は異なり、「情報を伝達するのに顔は必要ない」、「表情は情報の一部のため重要」、「資料が見えれば十分」、「顔が見えないと話しづらい」、「身だしなみを整えるのが面倒」など様々な理由で顔を見せたり見せなかったりしているようです。

弊社メンバーは、社内のミーティングも会社間のミーティングも、Web会議では顔を見せています。いろいろな要素を総合的に考えたうえでこのようにしていますが、本投稿から数回に分けて、それらの要素に触れてみたいと思います。

顔を見せた場合に必要なネットワーク帯域

まずはITの観点で、Web会議で顔を見せることによるネットワーク帯域への影響を見てみたいと思います。以下は、Microsoft TeamsとZoomが必要なネットワーク帯域について説明されているページです。

Microsoft Teams 用に組織のネットワークを準備する ー帯域幅要件ー

Windows、macOS、Linuxのシステム要件 ー帯域幅の要件ー

これらのツールを使用したことがある人は感覚的に理解されていると思いますが、基本的には利用するネットワーク環境に基づいて、ツール側でネットワーク利用量を最適化するようになっています。ネットワークが混雑した状況では最重要な音声品質は極力落とさず、ビデオの鮮明さを落として送信データ量を制限するような動きを行います。

そのうえでの話ですが、ビデオを使用すると概ね1Mbps程度のネットワーク帯域を利用すると思っておいた方がよいでしょう。例えば自宅でフレッツ光回線を使用しているような環境では、平均的に50Mbps程度はでているでしょうから、テレワークを想定したWeb会議での1Mbpsはなんの問題にもならないレベルだと思います。しかしオフィスで拠点間や取引先との打ち合わせを頻繁に行うような環境では、考慮が必要かもしれません。効果の大きさ、実現の容易さなど様々ですが、例えば以下のような改善策が考えられます。

例1)会議室のWeb会議設備

同じ施設内で同じ会議に10人が自席から参加した場合、1Mbps×10人=10Mbpsになりますが、その場合会議室に集まって会議室のスピーカーフォンやカメラを使用すれば、1Mbpsで済みます。各会議室で全指向性のスピーカーフォンや広角カメラが使えるような整備は必要ですが、後述するその他の対策より実現の容易性は高いと思います。

例2)各施設からのインターネット通信

各施設からインターネットへアクセスを行うための仕組みとして、拠点からデータセンターを経由して通信しているという環境は多いと思います。例えば各施設間でWeb会議を行う場合、「拠点A ⇔ WAN ⇔ データセンター ⇔ インターネット ⇔ Web会議サービス ⇔ インターネット ⇔ データセンター ⇔ WAN ⇔ 拠点B」という非効率な通信経路となり、データセンター側のインターネット回線圧迫にもつながります。SD-WANの技術として知られるローカルブレイクアウト機能などを使用することで、安全な通信を各施設から直接インターネットへ逃がすような工夫も考えられます。

例3)社外へ持ち出した会社貸与PCのインターネット通信

セキュリティ面を考慮し、会社貸与PCを社外に持ち出した場合でも、VPNなどを使用してすべての通信を一旦社内LANを介して通信するように構築している場合があります。この場合、社員同士がお互いの自宅から会社貸与PCでWeb会議をする場合、「自宅A ⇔ インターネット ⇔ 社内 ⇔ インターネット ⇔ Web会議サービス ⇔ インターネット ⇔ 社内 ⇔ インターネット ⇔ 自宅B」という非効率な通信経路となってしまいます。ゼロトラストの考え方やソリューションなどを基に、社外に持ち出すPCのセキュリティ対策を再考し、クラウド時代に合わせた環境へのシフトが必要かもしれません。

ネットワーク環境も徐々に安価で高速になっていますが、有限な資源であるため、上記のような改善を行いつつ、限られたネットワークを価値ある形で使用したいですね。ネットワークの話で長文になってしまったため、続きは次回以降でお伝えしたいと思いますが、ネットワークという有限な資源を1か所につき1Mbps消費するだけの価値が「Web会議で顔を見せること」にあるのか、次回以降でじっくり考えていきたいと思います。