松田 幸裕 記
前回の投稿「テレワークは「善」なのか?「悪」なのか? その1」、「テレワークは「善」なのか?「悪」なのか? その2」では、国土交通省より公開された2024年度の「テレワーク人口実態調査結果」を中心に、企業における昨今のテレワーク事情について触れました。
現状、テレワーク実施率は減少傾向にあり、主な理由として以下が挙げられるという話をしました。
- コミュニケーション不足
- 人事評価が困難
本投稿では、このうちの「人事評価が困難」について考えてみたいと思います。
人事評価はそもそも難しいもの
「テレワークでは部下が何をやっているかが見えず、人事評価が難しい」というテレワークの問題をよく聞きますが、そもそもテレワークでない状態で、今まで適切な人事評価ができていたのか?と考えると、疑問を感じます。
近くにいると、なんとなく何をやっているかがわかる気がするのかもしれませんが、あくまでも「なんとなく」ではないでしょうか。その「なんとなく」見てきたことで、「なんとなく」評価してきたのだとすると、それはテレワーク以前からの潜在的な問題であったかもしれません。
人事評価が難しい理由を、「主観」と「客観」の側面で考えてみたいと思います。
主観での人事評価
昔の日本企業の多くは、この方法で人事評価を行っていたのではないでしょうか。しかしこの方法では、一応能力評価の基準などは設けられるものの、基本的に上司の「好き嫌い」で部下の評価が決まってしまう傾向にあるため、問題と言えます。出世や昇給を目指す部下は上司にへつらうようになり、上司は権力を持つようになり、上司の意向に背く人は評価されなくなります。客観的な評価がされるようになってきた今も、少なからずこのような主観による評価の弊害は残り続けているのではないでしょうか。
客観での人事評価
客観性が高い評価を行うには、数値化や定型化が必要です。時には「売上」や「顧客満足度」のような成果で数値化され、時には「何件の改善提案を行った」、「社内で何件情報共有を行った」のような行動で数値化していきます。
この方法は一見理想的に見えるのですが、成果や行動による客観的な評価は体系化が難しく、本質的でなくなりがちです。「それをやれば評価が上がる」という意識になり、個人や組織の目先の利益に意識が行ってしまいます。
以前も触れたことがありますが、「コブラ効果」という言葉があります。昔のインドでの話で、コブラを撲滅するために「コブラの死骸を役所に持ち込めば報酬を与える」という制度を設けましたが、報酬目当てでコブラを飼育して死骸を持ち込む人が出てきてしまい、逆にコブラが増えてしまったという話です。目標を設定しても、本来の目的を見失ってしまうと逆に問題を悪化させてしまう、ということを「コブラ効果」といいます。客観性を高めた人事評価も、下手をするとこの「コブラ効果」が生じてしまうため、注意が必要です。
ということで、主観であろうと客観であろうと人事評価というのはそもそも難しいものであり、私から見るとそれをテレワークの中でやったとしても、難しさの違いは誤差レベルではないかと思うのです。
ちなみにbeeliefでは?
当社では、「人事評価は難しいものであり、完璧な人事評価というものは存在しない。」という前提で、試行錯誤の中で改善を繰り返しています。今後も改善を続けていくため、あくまで現時点での評価方法になりますが、簡単にご紹介します。
当社では360度評価を中心にしています。客観に頼ると本質を見失うため、基本的にはいくつかの本質的な評価軸(例えば「この人を信頼できるか?」など)で主観的な評価を行いますが、これをリーダーなど限られた人が行うとそこに私たちの大嫌いな「権力」が生まれるため、評価者を分散させています。そういう理由で、現在は360度評価を採用しています。
各自が自分に対しも他者に対しても、「この人の年俸はいくらか?その根拠は?それぞれの評価軸から説明せよ。」的なフォーマットでそれぞれ記入して提出します。さすがに各自が記入した評価内容をお互い知ってしまうと、「あの人は私のことをよく思っていない…」などの感情が生まれ、ギスギスした組織になりかねません。そのため、各自が記入した評価結果は、私を含めた最終評価担当のみに集められ、担当者にてその360度評価内容を基に最終評価が行われます。
決してこれが最善とは思いませんが、評価結果への納得感という意味では比較的高いのではないかと思っています。テレワーク環境でも、「頑張っている時は、ちゃんとみんなに頑張っていることを形として見せないと!」という意識も芽生えるため、積極的にコミュニケーションをとるようになります。逆にそれをやらない人は、周囲から信頼されず、人事評価は低くなりますが、それはそれで健全な結果だと思っています。みんなで決めてこの評価方法になっているという点も、納得感が高い要因の一つかもしれません。
今後も、ウイルスの蔓延だけでなく、自然災害なども含め、テレワークを余儀なくされる場面は出てくるでしょう。いつそうなってもいいように、コミュニケーションや人事評価などを、改めて見つめなおしてみることをお勧めします。