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新型コロナウイルス対策をデータドリブンの側面で考える その3

松田 幸裕 記


新型コロナ対策を検証する政府の有識者会議が、これまでの議論を踏まえた論点整理を行い、報告書を取りまとめたというニュースが報じられています。各種ニュース記事では、「わずか1か月」、「ヒアリングは2回のみ」など、検証の薄さが指摘されているようです。

私から見ると、検証の期間やヒアリング回数などは問題ではなく、「今までに検証は行われていたのだろうか?」、「今回の行為は『検証』ではなく、『振り返り』では?」という疑問の方が大きいです。辞書で調べてみると、「検証」とは「実際に調べて証明すること」、「仮説の真偽を確かめること」です。これが今回含め、今までに行われてきたのか?という点に疑問を持っています。

2年前の投稿「新型コロナウイルス対策をデータドリブンの側面で考える その1その2」で新型コロナウイルス対策とデータドリブンの関係に触れましたが、本投稿でこの点について再考したいと思います。

「検証」を具体的に考えるため、まずはITの障害を具体的な例としてみたいと思います。

ITの障害における検証とは?

例えば、ある業務システムでサーバーが高負荷になり、処理が滞り要求も受け付けられなくなる障害が発生したとします。サービスの停止、サーバーの再起動などの対応により何とか現象は治まりましたが、またいつこの障害が再発するかわかりません。再発を防止するためには、原因を特定し、対策を打つ必要があります。この時、一般的には以下のような観点での検証が必要になります。

  1. 今ある情報(現象発生時の記憶や、出力されたログファイルなど)を手掛かりに原因を解明する。
  2. 上記1より仮説を立て、再発防止対策を講じる。この対策により再発しなくなった場合は、仮説が正しかった可能性が高いと言える。
  3. 上記1より仮説を立て、再発時に仮説の真偽を確認できるよう情報採取の仕組みを講じる。

検証環境で容易に再現できないような問題で、かつ「今存在する情報を手掛かりに原因を特定する」ということが困難な場合、「仮説を立て、その仮説が正しいかを確認するために情報採取の仕組みを講じる」ことが非常に重要となります。また、一度の検証ですべてを解明できないことは多いため、仮説と検証はセットと考え、これらを繰り返す意識が重要です。

新型コロナウイルス対策における検証とは?

ITと新型コロナウイルスを同一視してよいのか?という議論はあると思いますが、この「検証」について考えるうえではITの障害と新型コロナウイルスの感染者増加は共通する部分が多いと思われ、新型コロナウイルス対策でも上記のIT障害への対策が応用できるのではないかと思います。

例えば、今年2月を中心とした第6波も、昨年8月を中心とした第5波も、ピークを越えた後は多少活発に活動をしても感染者数は増えていないように思えます。波を生じさせないことがベストではありますが、波が生じてしまった場合はその後の対策が重要になるため、「なぜ、ピークを越えた後は多少活発に活動をしても感染者数は増えないのか?」を解明することも大切なことです。

今までの波で採取した新規感染者数推移の情報、ワクチン接種者の情報などから、原因としていくつかの仮説が立てられます。

  1. 実は報告されている新規感染者数よりはるかに多い感染者(無症状、軽症含む)が存在していて、その人達も含めた形で集団免疫が形成された。
  2. ワクチン接種をした人、行動を抑制して感染を防いでいる人、既に感染した人によって集団免疫が形成された。
  3. 変異しない中で、実はウイルスは人に感染するにつれて感染力が弱まってくるという性質を持っている。

例えば上記1のような「新規感染者数にカウントされていない無症状、軽症の人」がどのくらいいるかは、市中でランダムにPCR検査を行い、おおよその感染者数は導き出せるでしょう。今までにこのような数字が採取できていればそのデータを使用して検証ができますが、まだ採取できていない場合は次の波が来た時に採取する必要があります。

また、例えば2は「感染者のうち、ワクチン接種者はどのくらいの割合存在するか?」、「感染者、非感染者の行動はどのくらい活発なのか?」などを確認することにより検証が可能になります。こちらも1と同様、まだデータを採取できていない場合は次の波が来た時に採取する必要があります。

(国民の行動を把握するにはスマホアプリなどITの力が不可欠です。プライバシー侵害を問題視する声は多いですが、一律10万円の支給では何の躊躇もなく口座情報を渡すくらいですから、協力のお願いの仕方によってうまく情報収集することもできると私は思っています。)

過去を振り返って「ワクチン接種者が多くなったため、波が治まったのかもしれない」などと推測するレベルでは、検証とは言えないと思います。検証は仮説とセットであり、「仮説を証明するためのデータが今存在しない場合は、次に発生した時に採取できるような仕組みをつくる」という形で、仮説と検証を繰り返す意識を持つことが重要であると、改めて感じた次第です。