· 

日本におけるIT人材不足の原因を探る ~その1~

松田 幸裕 記


徐々に新型コロナウイルス感染者数が減少傾向にあり、ロシア問題などもあってニュースや情報番組でも扱われる場面が少なくなってきましたね。問題が沈静化するのは良いことですが、日本においてこの2か月間で死者数は7千人を超えていて、今でも1日150人以上もの人がコロナ感染によって亡くなっていること、その大部分は高齢者であることなどは目を背けてはいけない事実だと思います。

2年前、新型コロナウイルスが広がり始めた頃から、「感染者数減少が優先か、経済が優先か」という議論はされていましたよね。「重症化率が高い高齢者を守り、それ以外の人は普通に生活して経済を回せばいい」と主張する人がいましたが、それに対しては「同居している高齢者を隔離することは困難なため、その案は非現実的だ」とされ、結局は感染拡大すると緊急事態宣言で行動を抑制する対策が行われてきました。その考え方がなんとなく「重症化率は低いため、経済優先で」という方向へシフトしてきたと思いますが、なんとなくシフトされて自分たちが犠牲になるというのは、高齢者としてはたまったものではないですよね。方向性を変えていくのであれば、高齢者には犠牲になってもらうのか、守るのであればどのように守っていくのかという観点もセットで考えてシフトしていかないといけないのではないか、と思う今日この頃です。

本題に入ります。ここ数年、「IT人材不足」の問題が各所から聞こえてきています。情報通信白書DX白書などでも大きく取り上げられますし、ITセキュリティなど特定の領域でもセキュリティ人材不足が問題として挙げられることが多くなっています。ITのみでなく全体的に人材不足はあるようですが、その中でもITの人材不足は特に深刻化しています。気になるのは、他国と比較しているデータを見ると、このIT人材不足の問題は日本特有のようで、他国より日本の方がIT人材不足が深刻化しています。

原因としては「人材育成の問題」、「定型作業をIT化できておらず、そこに人材が割かれている」などいろいろと言われていますが、本投稿では私自身がITの現場で見てきた感覚なども含めたうえで、この問題について考えてみたいと思います。

役割モデルの問題

ITの分野に限らず、各組織で業務の合理化を進める中で、役割の細分化が行われてきました。役割の細分化は「それぞれの担当業務に集中させるため、各業務での効率化を促進しやすい」という意味で良い側面ももちろんあります。しかし別の側面では「その業務しかできない、その業務しかわからない人材ばかりになる」という問題も生じます。そうなると「この業務に人が必要だが、適任者がいない」という状況は多くなるのではないでしょうか。

現在の複雑化したIT環境を運営していくうえで、これは長期的にみると根深い問題だと感じていますが、役割の細分化は日本のみでなく各国でも行われているため、「日本が特にIT人材不足に陥っている」という問題の原因ではないかもしれませんね。

「労働」を測る制度・文化の問題

日本では基本的に「成果」ではなく「労働時間」で労働を測る文化があると感じています。テキパキと動いているか、ダラダラと動いているかは別として、残業をすれば残業代が支払われますし、ダラダラと動いて成果が出ていなくてもあまり給与に悪影響がなく、解雇されるようなことも滅多にありません。

低い失業率を維持するという側面ではこの文化は良いといえますが、別の側面では「最低限やることだけやっていればいい」というような考えを植え付け、人間の成長は抑制され、人材の流動性も抑えられ、その結果人材不足という問題が生じるといえるのではないでしょうか。

法律自体が労働時間を基準として考えられているため、各企業としてはやりにくい部分もあると思いますが、その土台の上で成果主義をもう少し進めていくことはできると思っています。

官僚制の問題

「決めるのは私ではなく、上の人である。私は決められたことをやるだけ。」という考え方を持つと、人間は考えて行動することをやめてしまいます。「自己決定理論」として言われている人間の基本的な欲求である「自律性(自分の行動を自分自身で決めたい)」が満たされないため、内発的動機づけが促進されず、やる気も出ません。

組織の上層部としては「みんなが自分の思い通りに動いてくれる」ことはある意味理想ですが、このことも別の側面では「言われたことだけやっていればいい」というような考えを植え付け、人間の成長は抑制され、人材の流動性も抑えられ、その結果人材不足という問題が生じるといえるのではないでしょうか。

官僚制の問題は日本以外でも問題視されていることですが、私から見ると日本の方が問題として根深いのではないかと感じています。

各企業はIT人材不足に悩まされていますが、上記のようなことを考えると、もしかするとその問題を助長してしまっているのは各企業自身なのかもしれませんね。弊社も小さいですが一企業として、これらの問題と日々向き合い改善を重ねています。機会があればその改善などにも触れていきたいと思っています。