· 

ユーザー企業とIT企業の最適なコラボレーションの形とは?

松田 幸裕 記


水際対策を続けてきたオミクロン株ですが、ついに市中感染が確認されてしまいました。「海外からくる人、もう少し感染に気を付けて帰ってきてよ…」という気持ちは拭えませんが、毎日のように帰国者から多くの感染者が確認されていたため、時間の問題でしたね。

実効再生産数を1.0以下にするための活動を見いだせれば、過剰に恐れることなく活動できるのですが、未だ十分なデータが採取できていない状況であり、またどこかで全体を締め付ける形になるのですかね。

コロナ関連でもう一つ、新型コロナワクチン接種証明書アプリがリリースされましたね。私自身、接触確認アプリのCOCOA、TOKYOワクションなどすべてインストールしており、今回もリリース初日にインストールしてみました。しかし、2回接種済なのに「接種回数0回」と表示されて断念…。本日リトライしてみたところ、無事「接種回数2回」と表示されました。接種回数など表示の誤りがあって諦めた人は、数日後にぜひリトライしてみましょう。

本題に入ります。以前の投稿「 「情報通信白書 令和3年版」から今を読む その4 ~IT人材の偏り~」にて、日本ではIT人材がユーザー企業よりIT企業に偏っていること、偏りによって問題が生じていること、また偏りを無くす以外の方法で改善できないか、などに触れました。この話に関連しますが、IPA(情報処理推進機構)が「アジャイル開発外部委託モデル契約」を公開していて、興味深い内容なので、本投稿でこのモデル契約の有効性について考えてみたいと思います。

請負契約の繰り返しによる方法

この形に至るまでの道のりは長く、発端としては10年ほど前に遡ります。2010年度、アジャイル型開発をはじめとする非ウォーターフォール型開発の経験が豊富な実務者、契約に詳しい専門家など、産学官の有識者をメンバーとした「非ウォーターフォール型開発ワーキンググループ」がIPAにて設置されました。その活動の成果として、非ウォーターフォール型開発に適したモデル契約書が公開されています。

この時は、リリースごとに小分けにして個別の請負契約の締結を繰り返す方式でした。

準委任契約による方法

ここから改善されたというべきか、もう一つの方法が生み出されたというべきかわかりませんが、最新の「アジャイル開発外部委託モデル契約」では請負契約ではなく準委任契約を基にしています。アジャイル開発の特徴からすれば、あらかじめ内容が特定された成果物を予定したとおりに完成させることを義務付ける請負契約より、変化への柔軟な対応がしやすい準委任契約の方が適している、というわけですね。

一般企業における意思決定プロセスと適合しない問題

上記のように、一括請負という形のみでなく、より柔軟な契約締結の方法もモデルとして提示されてきてはいますが、、、一般的な企業としてはそう簡単な話ではない気がしています。

主に日本企業では、次年度が始まる数か月前に年間計画と必要なコストを定めます。そこで実施内容や費用を含め承認されなければ、次年度に費用のかかるプロジェクトを実施することは難しくなります。さらに、プロジェクトの前には稟議という日本独自の儀式がありますが、その額は年次予算策定時に承認された額を超えることは基本的に許されません。そして、当然ながらプロジェクトで実際に使われる費用は、稟議の額を超えないようにしなければいけません。このような流れのため、ユーザー企業のIT部門としては必要な費用を早期に確定し、実施の際にはその確定した額を超えないようにする必要があるのです。

そのため、ユーザー企業としては「決められた額の範囲内で責任を持って請け負ってくれるベンダー」が必要になり、一括請負契約が主流だったのですが、上記のような「個別の請負契約の繰り返し」や「準委任契約」などにしてしまうと、初期に決められた額をオーバーするリスクは大きくなってしまい、その責任はユーザー企業が負う必要があります。ユーザー企業としては厳しい選択ですよね。

「年次予算」、「稟議」などのしきたりを、変化に強い形に見直すことができれば、このモデル契約も利用しやすくなるかもしれませんが、、、そう簡単ではないですよね。

以前の投稿「 「情報通信白書 令和3年版」から今を読む その4 ~IT人材の偏り~」では「お互いの覚悟と信頼」が無ければこのような「個別の請負契約の繰り返し」や「準委任契約」などは困難であると書きました。ユーザー企業は委託先のIT企業を信じて協力的な姿勢を示し、IT企業も委託元のユーザー企業を信じて壁を作らず前のめりの姿勢を示すことで、初めてこのモデル契約が機能するのではないかと思います。