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ステークホルダー資本主義が主流となる時代はやってくるのか?

松田 幸裕 記


新型コロナウイルス感染者数が低レベルで推移していて、安心感のある状況が続いています。このまま「実効再生産数が1を超えない活動」を維持していきたいですね。

先日知人と数名で飲みに行ったとき、マスク会食を試してみました。どれだけ面倒なのか…と思ってやってみましたが、食事メインではなく飲みがメインであれば常時食べているわけでもないため、さほど面倒ではなく、2時間半のマスク会食を大きな苦痛なく楽しめました。今は感染者数の推移が安定しているのでマスク会食は不要かもしれませんが、増加傾向になった際には感染者数抑制と経済活性化を両立させるためのマスク会食も十分アリではないかと改めて実感しました。

本題に入ります。ハーバード・ビジネス・レビュー2021年10月号で、「ステークホルダー資本主義」をキーワードとした論文が特集として組まれていました。ステークホルダー資本主義とは、株主価値の最大化をビジネスの主目的にするのではなく、従業員、顧客、仕入先、地元コミュニティ、環境など企業のビジネスに関係するすべてのステークホルダーの幸福を考慮したものにすべき、という考え方です。既にこの考え方に基づいて活動し発展を続けている企業もいて、その事例なども掲載されており、ステークホルダー資本主義が少しずつ浸透していっているように見えますが、多くの企業での現実は「言うは易く行うは難し」というもので、簡単ではないように思えます。本投稿ではこのステークホルダー資本主義について考えてみたいと思います。

株主至上主義が抱える問題

ミルトン・フリードマンが株主至上主義を説いたのは1970年、その頃から約半世紀の間この考え方が原則とされてきました。しかし2019年8月に米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体であるビジネス・ラウンドテーブルが発表した声明では、株主至上主義からステークホルダー資本主義への転換が宣言され、話題になりました。株主至上主義が多くの企業から問題と認識されてきた証だと思いますが、その問題点とは何でしょうか?そこから考えてみたいと思います。

まず、配当など株主への還元が重視され、従業員への還元は軽視されるという問題です。このことは従業員のエンゲージメント低下や離職率の増加を引き起こしますし、昨今言われている「貧富の格差」を増大させるという点でも問題になります。

また、長期よりも短期の利益を求めるという問題もあります。投資へのリターンを早く得たいため、短期に成果が出る策を主体として方針が決定されることになり、企業の長期における成長という観点が軽視されがちになります。

こういう話はいろいろなところで言われているのですが、、、今も多くの企業の主流は株主至上主義になっているように思えます。

「権力」という弊害とどう向き合うか

これは個人的な見解ですが、私は株主至上主義というより「権力」という存在に問題があると感じています。

「投資をしてくれている株主は偉い」、「経営者は偉い」、「上司は部下より偉い」など、「偉い」とか「偉くない」とかいう概念が、このような状況を生み出しているように思えます。株主が短期的な利益を追求してきたとしても、対等な関係であれば「企業の長期的な成長を考えると、その考えはNoだ。」と言えますが、株主の方が偉く、権力を持っているため、株主の主張が優先されてしまいます。同じように企業内の組織の階層構造においても同じようなことが言えます。株主から経営者へ、そして役職者を経て一般社員へとトップダウンで指示が届き、現場は声を発することがなかなかできません。本来、人間に偉いとか偉くないとかは無いと思うのですけどね…。

以前の投稿「ITは雇用を創出するのか?雇用を奪うのか? その5」で、「官僚制は、経営側にとっては都合の良い仕組み」と書きました。自身が思い描く理想へ向かうために、組織を階層化し、アメとムチをうまく使いトップから全体をコントロールしていくという方法は、ある意味理にかなっており、この方法を採用する経営者は多いでしょう。この方法には問題があることをしっかりと理解している一部の経営者のみが、ステークホルダー資本主義へ転換し実践できているというのが現状のように思います。

ITとの関係

この問題はITも含め、多くのの企業活動において影響を与えます。ITにおいては、たとえば「コミュニケーションとコラボレーション?それで来期いくら利益が増えるんだ?そんな効果が見えにくいことより、効率化だ!」という思考に陥る場合もあるでしょう。業務効率化などは比較的効果が数値化しやすいため、そのような効果が見えやすいものに投資が行われやすくなり、組織力向上や組織的知識創造など本当は効果が大きいのに数値化しづらいものは重要度低として扱われてしまいます。

また、現場で素晴らしい改善案を見つけたとしても、「でも決めるのは自分じゃない。上が決めること。提案するのも自分の仕事じゃない。」という気持ちでは、ITの最適化は期待できません。

今の私にできることとして、このようにブログで「何が大切なのか」を書いていくこと、そして自社をあるべき姿の企業にして証明していくことなど、一歩ずつですが、できることから実行していけたらと思っています。