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「with/after コロナ」におけるワーク・フロム・ホームを考える その2

松田 幸裕 記


緊急事態宣言が発出されてから1か月半が経過しました。新規感染者数が減少傾向にあるからか、ここ1~2週間メディアは東京五輪・パラ組織委員会会長の話題に集中していました。この騒動、森氏の発言に問題があったことに異論はありませんが、いろいろな観点で気味の悪さを感じました。例えば、ダイバーシティを主張する人たちによる、個人の思想への集中攻撃があったように感じました。また、女性蔑視を批判する人たちによる、「老害」発言にも違和感を覚えました。後半ではなぜか「透明性」がテーマとなり、問題の本質は何だったのだろうかと疑問に思ってしまう騒動でした。

今回の森氏の発言で多くの女性が怒りの声をあげた背景には、この社会の不平等があると感じています。だからこそ、一人の不用意な一言がこんなにも大きな問題に発展したのですよね。男性と女性は平等であると多くの人が思っている中で、実は普段の生活の中で男女不平等と感じている女性が多いのではないでしょうか。この原因を追究し、社会として改善していかないことには、本質的な問題解決には近づけないと感じています。

弊社内では改めて、「男女問わず、いろいろな状況にある人、いろいろなニーズを持つ人が安心して働ける環境をつくるには?」について話し始めています。少しずつでも理想に近づけていけたらと思っています。

毎度前置きが長いですが、本題に入りたいと思います。以前の投稿「「with/after コロナ」におけるワーク・フロム・ホームを考える その1」では、ハーバード・ビジネス・レビュー2020年11月号の特集「ワーク・フロム・ホームの生産性」を題材に、ワーク・フロム・ホームにおける業務の生産性について考えました。本投稿も引き続き、同論文から論点をピックアップしつつ、with コロナ、after コロナのワーク・フロム・ホームの在り方について考えてみたいと思います。

「生産性」の考え方

ワーク・フロム・ホームについて考える前に、改めて「生産性とは?」について触れておきたいと思います。

生産性は「生産性 = 産出(アウトプット) / 投入(インプット)」という式で表現されます。少ない投入(インプット)で大きな産出(アウトプット)ができれば、高い生産性を実現できるということになりますね。ワーク・フロム・ホームの対象となるオフィスでの業務で考えると、投入(インプット)としては従業員の労働時間や各種経費などが挙げられ、業務を効率化すればそれだけ分母である投入(インプット)が削減でき、生産性が上がることになります。また、産出(アウトプット)としては業務内容によって異なりますが、例えば魅力的な製品の開発や、売上向上につながる説得力のある提案資料、魅力的なサービスメニュー開発などが挙げられ、それらにつながるイノベーション創出や知識創造などが結果的に産出(アウトプット)増大につながり、生産性向上に寄与することになります。

とかく日本では生産性向上というと「効率化」に目が行きがちで、上記でいえば投入(インプット)に力点が偏ってしまうことが多いですが、「生産性 = 産出(アウトプット) / 投入(インプット)」であることを頭に置き、次の話に進みます。

ワーク・フロム・ホームによる関わり合いの減退

ハーバード・ビジネス・レビューの論文に話を戻しますが、その中には「あるテクノロジー企業のデジタルインタラクション量を分析したところ、ロックダウン後は密接な協働者とのコミュニケーションは40%増えていたが、それ以外の同僚とのコミュニケーションは10%減っていた。」ということが書かれていました。

これはワーク・フロム・ホームを体験した人であれば頷けるでしょう。業務上必要なコミュニケーションは行わなければならないものなので行われますが、業務上必要でないコミュニケーションは、下手をすればゼロに近くなってしまいます。上記では10%減と書かれていますが、多くの企業ではそれ以上の減少になっているのではないでしょうか。

関わり合いの減退が及ぼす影響

ハーバード・ビジネス・レビューの論文では最近流行りの「セレンディピティ」などの表現も使われ、オフィス内での出会い、そこでの軽い世間話などから生まれる便益が少なくなることを懸念しています。これも頷ける人は多いのではないでしょうか。例えば、最近はなくなってきましたが、タバコ部屋で偶然いい情報を得る、なんてこともよくありましたよね。また、困った様子の同僚に「どうしたの?」と声をかけ、その些細な会話の中で「あー、それだったらXXさんが同じようなことで以前悩んでいたから、何か情報を持っているかも。」など、手掛かりをもらったりすることもあると思います。

ワーク・フロム・ホームを行うことにより、業務の中で直接関わる相手との、その業務でのコミュニケーションはより密になることはありますが、それ以外の、業務と直接関係のない緩い会話や、業務で直接関わらない同僚などとのコミュニケーションは激減します。このことによる悪影響はかなり大きいため、機会があれば今後の投稿で再度整理したいと思いますが、関わり合いが疎になってしまう問題についてしっかり向き合い、対策を考えていくことの必要性を強く感じています。