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「with/after コロナ」におけるワーク・フロム・ホームを考える その1

松田 幸裕 記


新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。政府も意思決定の仕組みがうまく機能していないためか、後手に回ることが多く、緩んだ人々の心を動かすような対策ができていない状況です。

経済を動かせば医療が逼迫し、医療従事者が大変です。一方で、経済を止めれば飲食業や観光業など一部の業界や、非正規雇用者への影響が大きいです。どちらを採ってもどちらかが大変な目にあうのはわかっているのに、「GoToを止めるか」や「時短要請を延長するか」など、二択の中で考えていることに、強い違和感を覚えます。感染拡大防止と経済活動を両立させるなら、「どうやったら両立できるか?」を考えなければいけないのではないでしょうか。アクセルとブレーキの話ではなく、別の観点で話をしなければいけないような気がします。マスクを外した時が最も危険ならば、そこにフォーカスして対策し、多少国民が我慢してでも「マスク会食」、「フェイスシールド会食」を本気で要請したり、「机上のアクリル板の強制設置」、「助成金で焼肉店のような各テーブルへの換気口設置」で安全性を高めるなど、実効再生産数が1未満になる対策を考えていくべきではないかと思うのですが…。

私たちも、政府の対応に頼るのではなく、成すべきことを自分自身でしっかり考えて、行動していかなければいけませんね。

今回も前置きが長くなりましたが、本題に入りたいと思います。

ハーバード・ビジネス・レビュー2020年11月号の特集は、「ワーク・フロム・ホームの生産性」でした。コロナ禍によるワーク・フロム・ホーム(≒テレワーク)が始まって半年間強、短期間で採取できた情報を突貫でまとめた感じはあり、納得感に欠ける部分もありますが、それでも気付きにつながる情報は多くありました。本投稿では、11月号の中の「オフィスに集まらず生産性をいかに高めるか」という論文からいくつかの論点をピックアップしつつ、with コロナ、after コロナにおけるワーク・フロム・ホームの在り方について考えてみたいと思います。

米国における、ワーク・フロム・ホームでの生産性

コロナ禍によって突然、人と人との接触を避けなければならない事態となり、ワーク・フロム・ホームを半ば強制的に行わなければならなくなりました。準備も不十分な中で、きっと業務の生産性は相当落ちているだろうと思っていましたが、この論文を読む限り、米国では生産性があまり落ちていないようです。コロナ禍に見舞われた直後、一時的な生産性の落ち込みはあったものの、新しい働き方への適応が思いのほか早く行われ、2か月後には生産性の落ち込みから回復していたそうです。

(ここでは簡単に表現していますが、考えられる原因など含め詳しい話について知りたい方は、ハーバード・ビジネス・レビュー2020年11月号をご購入ください。)

ワーク・フロム・ホームへの適応ができていて、生産性が落ちていないというのは、驚くべき結果ですね。

日本では?

日本の多くの企業における実態を把握しているわけではないため、少し偏った見方になっているかもしれませんが、私が今まで見てきた中では上記の米国の結果は日本には当てはまらないだろうという感覚があります。米国と異なり、日本では「ワーク・フロム・ホームによって生産性が落ちている」という企業が多いのではないでしょうか。個人的見解ですが、思い当たる点を書いてみたいと思います。

まずは役割と評価制度です。欧米では一人ひとりの役割がJob Description(職務記述書)で明確化されていて、成果主義のため評価指標も明確な場合が多く、離れた場所にいてもやるべきことや目指すところは明確です。しかし日本では「成果」よりどちらかというと「労働時間」を基準にしているせいか、役割や評価指標が不明確な場合が多く、離れてしまうと自身が何をすべきかわからなくなるような人も出てきます。一方、リーダーはこのような状況にあるメンバーたちの面倒を見る必要があるため、遠隔地から都度指示をしたり、フォローしたり、状況把握したりと、大変になります。

最近、「成果主義」や「ジョブ型雇用」を採用している日本企業も増えてきていると思います。安易な成果主義、安易なジョブ型雇用は副作用を生む可能性がありますので、先行した欧米で何が起こっているかをしっかり理解したうえで採用を検討する必要はありますが、上記の課題を解決するにはこのような考え方をうまく取り込んでいくことは必要だと思います。

もう一つ、コミュニケーションに潜在的な課題がある状態のままワーク・フロム・ホームを始めてしまうことで、コミュニケーションが破綻する例もあると思っています。例えば、非同期コミュニケーションとして主にメールを利用しているものの、「メールには返信しなくても許される」、「2~3日返信しないのは当たり前」というような文化でメールを利用している企業は少なくないと思います。これはいつもお互いが近くにいる環境だから成り立つ文化であり、そのままワーク・フロム・ホームに入ってしまうとコミュニケーションは機能しなくなります。

ワーク・フロム・ホームのためのITの整備より、上記のような制度設計の方が、重要でありかつ難しいことなのでしょうね…。

ちなみに弊社では?

弊社はIT屋ということもあり、ワーク・フロム・ホーム主体に切り替えたことによって生産性が落ちることはなく、逆に上がっています。弊社では以前から「家にいてできる業務は、わざわざ会社にきてやらなくてもいい」という方針だったため、元々ワーク・フロム・ホーム率は高かったのですが、顧客訪問の観点ではコロナ禍で大きく変わりました。以前は1日に3か所のお客様先に訪問していたことも多かったのですが、今は多くがWeb会議になっているため、その分の移動時間が削減されたことは非常に大きいです。以前は「顧客先に訪問せずWeb会議で済まそうとすることは失礼な行為」という空気感がありましたよね。それが無くなり、Web会議が普通になりました。現在は先方のWeb会議環境が悪い場合(先方の声が聞こえづらいことが多い場合や、顔を見せない分化のため表情がわからず相談事などがしづらい場合)や、検証作業などでお客様のPC環境を使用しないといけない時くらいしか、訪問していません。また、書くと長くなるため省略しますが、コミュニケーション方法や評価制度、気付きの共有、自宅での生産性など様々な側面での工夫もしているため、ワーク・フロム・ホームによって今のところ生産性は上がっています。弊社は規模が小さく、その分柔軟性や俊敏性を発揮しやすいため、このようなことができるのかもしれませんが。

コロナ禍で、各社が試行錯誤しながらワーク・フロム・ホームを実践していると思いますが、前述した論文などの内容をぜひ有効活用し、改善につなげていただければ幸いです。