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IT人材白書2020から今を読む その3

松田 幸裕 記


前々回の投稿「IT人材白書2020から今を読む その1」でデジタルトランスフォーメーションと効率化の現状について、前回の投稿「IT人材白書2020から今を読む その2」で組織や個人における学びについて触れました。本投稿ではIT人材白書には直接触れませんが、前回までの話からの延長として、組織や個人の学びを促進しITの最適化を進めていく方法について、考えてみたいと思います。

IT最適化の進め方

IT最適化を進める方法として、大きく「集中型」と「分散型」があると考えます。集中型は、中央に専門部隊を設置し、ターゲットとなるビジネス領域を絞って変革を進めていく方法です。分散型は、全体で使える仕組みを用意し、個々の組織や個人がその仕組みを使い変革を進めていく方法です。個々の方法について、もう少しだけ深掘りしてみましょう。

集中型でのIT最適化推進

集中型は、CDO(Chief Digital Officer)やDX専門部隊を設置し、その部隊が中心となって進めていきます。企業参謀的な部隊をつくるために、外部から適した人材に参画してもらうことも有効な方法です。そのうえで、ターゲットとなるビジネス領域を絞って変革を進めていきます。「サプライチェーン変革」、「カスタマージャーニー変革」などは、このような体制と進め方で実現できそうです。ただ、全体の仕組みとして組織や個人の知を使った改善というわけではなく、ターゲットも全体最適でないため、効果が出る範囲は限定的です。

分散型でのIT最適化推進

分散型は、全体で使える仕組みを用意し、個々の組織や個人がその仕組みを使い変革を進めていく方法です。例としてビジネスインテリジェンス(BI)を挙げたいと思います。ビジネスインテリジェンスという用語が流行った2000年代、どちらかというと企業の限られた部隊でデータ分析をしてビジネスの課題解決を行っていました。そこから「セルフサービスBI」というキーワードとともに、「分析の専門家ではなく、現場を理解している人が分析することにより、最適なビジネス変革につながる」という考え方が広まりました(詳しくは「データドリブン経営の実現にむけて その4」にて説明しています)。分散型では全員経営的な側面があり、前に進んだ時のパワーは凄いものになります。ただし、現実は簡単なことではなく、ITとして仕組み入れただけでは「導入したのに、十分に使われない」ものになることが多いです。

参考書籍:「DX実行戦略」

上記のように、集中型も分散型も、十分なものとは言えなさそうです。ただ、この双方のメリットをうまく利用する考え方もありそうです。

以前読んだ「DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる(日本経済新聞出版)」がこの形に近く、参考になりそうなので、紹介したいと思います。

この書籍では、「トランスフォーメーション・オーケストラ」というフレームワークを使い、適切な「人・データ・インフラ」というリソースを集合させ、推進していくという方法が説明されています。私が勝手に図にすると、以下のようなイメージになります。

それぞれの課題に対応するために構成された、人・データ・インフラの集合体である「変革ネットワーク」が変革を進めていく部隊となりますが、その「人」自体は専門の部隊ではなく各現業部門に所属する社員です。中央にCTO(Chief Transformation Officer)や変革推進室を設けて全体を推進しつつ、それぞれの課題解決については各現業部門に所属する社員で構成された変革ネットワークとして推進する、という形です。

実際は、よくある「バーチャルチーム」や「委員会」での活動のように、安易に進めてしまうと「別に、この活動に力を入れても評価されないし…」や「現業で手一杯なのに余計な仕事を振られた」という感情が生まれるのがオチで、「言うは易く行うは難し」と言えます。そのようなオチにならないよう、人事評価なども含め考慮が必要ですし、教育によるITスキルの底上げなども必要です。ただ、前回・前々回で触れた効率化の現状や組織や個人における学びの現状を改善していくためには、このくらいの仕組みづくりをしていかなければいけないのではないか、と感じています。