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IT人材白書2020から今を読む その2

松田 幸裕 記


「脱ハンコ」の流れが加速しています。婚姻届や離婚届、年末調整、確定申告など、様々な手続きで押印を不要とする方向で検討が進んでいるようです。

はんこ屋さんの気持ちを考えると、複雑な心境です。時代の流れとともに不要となり衰退していく事業はあり、そこは事業者側も受け入れなければなりませんが、今回は河野太郎行革担当大臣の一言から急激に動き出した流れで、はんこ屋さんから見れば青天の霹靂です。なかなか受け入れられないでしょうね…。

私は毎年確定申告を行っていますが、確定申告については、問題はハンコではない気がしています。本質を見失わず、改善していってほしいですね。

前回の投稿「IT人材白書2020から今を読む その1」では、デジタルトランスフォーメーションと効率化の現状について触れました。本投稿では視点を変えて、人材の育成について触れてみたいと思います。

自主的な学びが促進されず、IT人材の量と質が不足している現状

IT人材白書2020に、「IT人材の“量”に対する過不足感」、「IT人材の“質”に対する過不足感」という表現で、ユーザー企業やIT企業のIT人材の不足感について数値で示されています。これを見ると、ユーザー企業もIT企業も、そして量も質も、「大幅に不足している」、「やや不足している」の割合が非常に高いことがわかります。そして、IT企業では不足感の増減は横ばいですが、ユーザー企業では不足感が徐々に増加しています。ユーザー企業では各領域での「内製化」が少しずつ進んでいるため、その分不足感も増大しているのかもしれませんね。

そしてもう一つ気になるのは、「学び」に関する情報です。「先端IT従事者と先端IT非従事者の自主的な勉強の状況」というグラフで示されていますが、「業務外(職場以外)ではほとんど勉強しない」、「業務上必要な内容があれば、業務外(職場以外)でも勉強する」の割合が多くを占め、「業務で必要かどうかにかかわらず、自主的に勉強している」という人は15%~20%しかいないという状況です。

この2つの事実が直結していると断言はできませんが、IT人材の量と質が不足しており、その一つの要因として個人の自主的な学びが促進されていないことが影響している、とも考えられそうです。

組織の学びと個人の学び

ITの領域に限らず、人材の量と質を充実させるために、組織の学びは不可欠だと思います。また、組織の学びを促進するうえで、個人の学びも大切になります。

ピーター・センゲ氏著の書籍「学習する組織 ― システム思考で未来を創造する」を以前読んだ際に、印象的な文言があってメモしたことを思い出しました。

「個人が学習することによってのみ組織は学習する。個人の学習なくして組織の学習なし。」

以前の投稿「新型コロナウイルス問題から「働き方」を再考する その2」で触れたSECIモデル、「新型コロナウイルス問題から「働き方」を再考する その3」で触れたトランザクティブ・メモリーなど、組織としての学びを考えていくと同時に、組織が学習するうえでの土台として必要な、個人の学習を促進することが重要と言えます。

「業務で必要かどうかにかかわらず、自主的に勉強」することの重要性

前述した通り、「業務で必要かどうかにかかわらず、自主的に勉強している」という人は15%~20%しかいないという状況です。私の個人的感覚では、実際はこの数字より少ない気もしていますが、どちらにしても業務に必要か否かに関わらず学びを行っている人は少ない状況です。これがどのように影響してくるのでしょうか。

以前の投稿「効果的なIT導入に向けて ~「シナリオ」の活用~」でも触れた例を再度使いますが、例えば昔に遡って、仮に手紙という通信手段は知っていて、電話という手段をしらない人がいたとします。その人は手紙という手段しか知らないため、「あー、電話があったらいいなー」とも思いませんし、もしかすると手紙という手段に課題すら感じないかもしれません。電話という手段を知ることによって、初めて手紙という手段に課題を感じ、電話という手段がイメージできるようになります。創造力のある人は、電話という手段を知らなくても自身であるべき姿を発想できるかもしれませんが、いろいろと吸収をしていくことによってそれらがヒントとなり、創造力が磨かれると思います。

この「課題を課題として認識する」ということができるようになるためには、日頃行っている業務の範囲を超えた学びが必要だと思っています。必須とまでは言えないかもしれませんが、業務の範囲を超えた学びによって、課題の認識、気づきなどが促進されていくことは間違いないでしょう。

組織の学びと個人の学びをどのように両立させ、人材の量と質の不足を補っていくべきなのか、今後さらに考えてみたいと思います。