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人間は利己的なのか、利他的なのか その3

松田 幸裕 記


引き続きコロナウイルスが猛威を振るい、世界経済に大打撃を与えています。自粛要請が出ている中でも、「我慢できないから」「自分は若いから感染しても軽症で済むから」など身勝手な理由で不用意に外出してしまっている人がいるのは、とても悲しいことですね。
 日本で緊急事態宣言が出ましたが、海外からは「対策がぬるい」などの批判が出ています。本当に罰則を設けた禁止にしなければ、日本はコロナウイルスの脅威に勝てないのでしょうか。2018年のサッカーW杯で日本代表の敗戦後、皆で観客席のゴミ拾いをし賞賛を浴びた日本人の精神。この美しい日本人の心を団結させ、日本では法で強制されなくても倫理観や協力・利他の精神で乗り越えられるということを、全世界に見せたいところです。
 グローバル化や資本主義が進んだ現代社会において、人類が何かを試されている、そんな気がしています。

前回・前々回の投稿「人間は利己的なのか、利他的なのか その1その2」で、人間には利他的な精神が宿っていること、人間は想定されていた以上に協力的で私心がない、あるいは自己中心的な行動を慎むという証拠が見つかっていること、そして組織内で利他的な風土を醸成するためのヒントとなりそうな理論について触れてみました。まだ若干書ききれていない内容がありますので、本投稿でも同テーマで論じてみたいと思います。

「己」の範囲

人はそれぞれ生き方や考え方が異なるため、利己的なタイプの人もいれば利他的なタイプの人もいます。しかし、利己的タイプの人も、自分の子供、自分の妻、夫などに対しては「家族」という括りで思いやりを持てる場合が多いのではないでしょうか。また、恋人や親友などに対しても、「困っていたら助けたい」という感情が自然に湧くのではないでしょうか。これは、「利己的な人でも、相手によっては利他的になる」と言うより、その人の「己」の枠の中に自分以外の人も含めることができ、自分を大切にすることと同様に「己」の枠の中に入っている人をも大切に感じる、という方が表現として適切な気がします。
 アメリカの社会学者ウィリアム・グラハム・サムナーは、著書「フォークウエイズ」(1906)で、「内集団・外集団」という用語を用いて他民族への敵対心や自民族への愛の存在を説明しました。「内集団」とは、個人が自らをそれと同一視し、所属感を抱いている集団を意味します。それに対して「外集団」とは「他者」と感じられる集団で、競争心、対立感、敵意などの差し向けられる対象であるとされています。(参照:コトバンク
 線を引いてしまえば、その先は敵意を抱く対象である他者となってしまいます。ただ、他者に敵意を抱くほど線を引かずに「己」の範囲を広げることもできるのではないかと思うのです。
 例えば、知り合いになった人が偶然同じ出身地で、しかも出身中学が同じだったら、妙に親近感が湧きませんか?知り合いになった人のお子さんが自分の子供と同い年で、子供に関する悩みを同じように抱えていることがわかったら、今より少し親近感が湧きませんか?
 「自分の小さな「箱」から脱出する方法」などの「箱の法則」シリーズ本では、「人を「人」として見ているか」「人を「モノ」として見ているか」で相手を尊重できるか否かが変わるとしています。相手を一人の、意志を持ち傷つきやすい、自分と同じ人間として見ることでも、相手を尊重し、大切に感じることができるのです。
 組織はあくまで「仕事をする人の集まり」ではありますが、仕事と若干離れたFace to Faceの関わり合い、社内SNSなどでの砕けた会話などを介して、少しでも「己」の範囲を広げられたら、と思っています。

5段階欲求の先にあるもの

アブラハム・マズローの欲求5段階説は多くの人がご存知だと思いますので、説明は割愛します。マズローは晩年、5段階の欲求階層の上に、さらにもう一つの「自己超越」という段階があると説いていたそうです。
 組織的知識創造の権威である野中郁次郎氏らの著書「知識創造経営のプリンシプル ― 賢慮資本主義の実践論」にもこの段階についての説明があります。この段階は自己を超えたレベル、つまり倫理的で利他的な「コミュニティ(共同体)発展欲求」であったとして、「共同体的企業体」の重要な要素として関連付けています。
 この段階的欲求は人間の成長と共に上がっていくものといわれており、最終形である自己超越に達している人は全体の2%程度とされているため、組織全体をこのレベルに押し上げることは至難の業かもしれません。しかし、組織として安全の欲求を満たし、コミュニケーションやコラボレーションで所属や承認の欲求を満たし、企業理念や行動規範を軸に自己実現や自己超越の欲求にチャレンジしていけたら、まったく不可能なことではないとも感じます。

前投稿と同様、いずれもITだけではどうにもならないことですが、できることから始めていき、組織内に利他的な風土を醸成していきたいですね。