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データドリブン経営の実現にむけて その7 ~データドリブンと従業員エンゲージメントの関係~

松田 幸裕 記


以前の投稿「データドリブン経営の実現にむけてその1~その5」において、データドリブン経営の実現につながるのではないかと思う要素に少しずつ触れていっています。本投稿では、データドリブンの効果を高めるための、従業員エンゲージメントという観点について考えてみたいと思います。

先日経験した、ある企業の有償サービスについての出来事を、例として挙げたいと思います。
(その企業への批判になってしまうため、企業名やサービス内容は伏せます。イメージがつかみにくくなると思いますが、ご容赦ください。)
 私はそのサービスをかなりの頻度で利用しているのですが、「もう少しこの点が改善されたらな…」と感じる部分がありました。それは強く問題として感じるレベルではなく、少し我慢すれば使えるためクレームに発展するほどでもないレベルですが、多くの利用者が感じているであろう不満だったと思います。また、このサービスは公共性が高く多くの人が利用しており、このサービス提供会社の従業員の皆さんの多くも、同時に顧客としてもこのサービスを利用していると思われます。

その不満な点は改善されないままだったのですが、ある時、ネットの記事で「XXの点で不満なサービス提供企業ワースト10」というような内容で、その不満の声が多い企業名が公表されました。私がよく利用しているサービスを提供している企業は、ワースト3に入っていました。
 やはり多くの人が不満を感じていたのだろう、とその記事を見て思っていたのですが、、、そのたった数日後に、不満と感じていた部分が改善されました。おそらくこのネット記事の内容がその企業の意思決定権限を持った人に伝わり、すぐに改善がされたのだと思います。

データドリブンという観点で考えると、その不満となる指標はセンサー等で計測可能なものでしたし、利用者のアンケートで数値化することでも把握可能なものでしたので、データからの改善が可能だったと思います。そのため、「データドリブンで行きましょう」という言い方もできるのですが、、、ただ、意思決定者に伝わればすぐ改善されるようなことが、今までまったく伝わってこなかったことに、大きな問題を感じてしまいます。
 前述した通り、このサービスはサービス提供会社の従業員の皆さんも利用していると思われます。従業員の皆さんがこの問題を会社の問題と感じ、問題提起を行うことができていれば、ワースト3に入ることもなくもっと前に改善できたのではないかと思うのです。

ハーバードビジネスレビュー2019年11月号の特集は「従業員エンゲージメント」でした。
 従業員エンゲージメントとは、従業員が自社に対して持つ自発的な貢献意欲を意味します。従業員エンゲージメントが高ければ、企業が掲げるビジョンを従業員がしっかり理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献し、問題解決も盛んに行われ、イノベーションも頻繁に生まれます。
 先ほどの例で言うと、サービス提供企業の従業員エンゲージメントが不足しているため、従業員は企業の掲げるビジョンよりも単純に「自分に課せられた仕事のみをこなす」ことに集中してしまい、今まで問題提起も行われてこなかったのかもしれません。

前回の投稿で「カスタマージャーニーとデータドリブンはともにデジタルトランスフォーメーションを実現するための重要な要素であると言えます。」と書きましたが、同様に、この従業員エンゲージメントも重要な要素であると言えます。闇雲にデータを集め、マイニングや機械学習にかけることで、もしかすると何かが見えてくるかもしれません。ただ、従業員エンゲージメントを最大化し、多くの従業員から出てくる自発的な行動や問題提起からカスタマージャーニーを理解し、そのうえでデータの有効活用を行うことで、効果は最大化されるのではないでしょうか。従業員エンゲージメントとカスタマージャーニー、データドリブンは三位一体と言えます。

従業員エンゲージメントについては、今後「働き方改革を再考する」のテーマなどでも取り上げていきたいと思っています。前述のハーバードビジネスレビュー2019年11月号の各論文には、従業員エンゲージメントに関する重要性、方法論などが詳細に描かれています。興味のある方は、ぜひ論文を購入して読んでみてください。