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データドリブン経営の実現にむけて その1

松田 幸裕 記


ハーバード・ビジネス・レビュー 2019年6月号で、「データドリブン経営」が特集されていました。
 データドリブン経営は今後企業が生き残るための必須条件であり、新たな競争優位の源泉となるとされていて、いくつかの論文で説明されています。デジタル・トランスフォーメーションを進めていくうえでもデータ活用は重要な要素の一つであり、データをどのように活用して意思決定を最適化していくのかを再考することが求められています。

ただ、真実を示すデータを引き出すこと、心理的なバイアスに負けず正しい視点でデータを見ること、そこから本質につながる何かを洞察することなどがデータドリブン経営には必要であり、適切なITソリューションを導入すればよいという簡単な話ではありません。ビジネスインテリジェンスというキーワードを中心にデータの必要性が以前から叫ばれていたのに、うまくデータを活用できていないことからもそれがわかります。

本投稿から数回に分けて、データドリブン経営の実現につながるのではないかと思うポイントに触れていきたいと思いますが、まずは一つ例を挙げていくつかの気づきを共有し、次回以降で各種理論とつなげてみたいと思います。

最近、高齢者による自動車の事故が多発しているという話が、メディアで取り上げられています。「高齢者による事故、相次ぐ」という形で日々事故の報道がされていますが…私は最近、「相次ぐ」という用語に敏感になっていて、時間があれば真実か否かを調べるようにしています。
 高齢者による自動車の事故がクローズアップされるようになった当初、「高齢者の事故はこんなに多いです」というグラフを見せて説得力を増している番組がありました。しかし、なんとなく違和感を覚えたため調べたところ、そのグラフは「高齢者が運転していて起こった事故」ではなく「高齢者が遭遇したすべての事故」の件数でした。このことをきっかけに、しっかりデータと向き合わないと本質を見失うのではないかと思い、深掘りしてみた次第です。

平成30年交通安全白書で、交通事故の実態がデータとして表現されていますので、これをもとにいくつかのポイントを挙げてみたいと思います。

我々が目にしているのは、多くの事故のうちのほんの一部である

第1-7図を見ると、平成29年の交通死亡事故件数は3,630件もあることがわかります。単純計算で、1日10件程度発生していることになります。メディアが1日に1件交通死亡事故を取り上げるとして、取り上げているのは全体の1/10程度ということになります。報道されている事故以外にも多くの事故が発生していることを私たちは認識すべきです。

高齢者は加害者でもあり被害者でもある

第1-4図と第1-5図を見ると、高齢者による事故が多いという印象を持ってしまいますが、これはあくまで「交通事故死者数」です。たまにこの種のグラフで「高齢者の運転による事故が多い」と主張されることがありますが、注意が必要です。第1-19図にあるように、高齢者は歩行中に交通事故にあい死亡していることが最も多いのです。高齢者は被害者でもあることを認識すべきです。

高齢者と同じくらい若者の交通事故が多い

第1-23図を見ると、意外なことがわかります。まず、30歳~69歳の運転による死亡事故は少ないと言えます。それを基準にしてみると、確かに80歳以上の運転による事故はその3倍程度も発生していることがわかります。ただし、80歳以上と同じくらい16~19歳の事故も多いのです。同様に、70~79歳の運転による事故は30歳~69歳の1.5倍程度発生していますが、20~29歳も同じくらい多く事故が発生しています。高齢者の運転による事故は多いですが、同じくらい30歳未満の運転による事故が多いことを認識すべきです。

別のデータで見たり、別の角度で見てみると、更にいろいろなことがわかると思いますが、偏った情報をもとに偏った視点でデータを見てしまうと、意思決定を誤ることにもつながってしまいます。「真実を示すデータを引き出すこと」、「心理的なバイアスに負けず正しい視点でデータを見ること」が重要であると強く感じます。
ぜひ皆さんの目で、いろいろな角度でいろいろな数字を見てほしいと思っています。