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データドリブン経営の実現にむけて その2

松田 幸裕 記


以前の投稿「データドリブン経営の実現にむけて その1」において、高齢者による自動車事故のデータを例として挙げました。データドリブン経営の実現につながるのではないかと思うポイントに触れていきたいと思いますが、本投稿と次回投稿では意思決定で陥りやすい「ヒューリスティックとバイアス」という特性について触れたいと思います。

2002年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者ダニエル・カーネマンの著書「ファスト&スロー(上・下) あなたの意思はどのように決まるか?」では、人間の思考を「システム1(速い思考)」と「システム2(遅い思考)」に分けて説明されています。そのうちのシステム1は、自動的に高速で働き、自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない思考です。システム1という速い思考の存在によって高速な意思決定の実現につながるのですが、、、そこには「ヒューリスティック」や「バイアス」などの落とし穴が存在し、高速な思考だけに判断に誤りが生じる確率も高まります。

バイアスはよく知られた用語であり、皆さんも会話の中で使ったことがあるでしょう。バイアスにはいくつもの種類がありますが、データドリブン経営を推進していくうえで意識しておかなければならない厄介なバイアスは「確証バイアス」でしょう。
 確証バイアスは、自分の正しさを確かめるような情報ばかりを集める間違いをいいます。心理学では「初頭効果」とセットで説明されることが多いようです。初頭効果とは、最初に作られた印象は修正されにくく、むしろ増殖していくという現象をいいますが、初頭効果によってつくられた印象が確証バイアスによって確立していく、という連鎖になります。

高齢者による事故についても、「高齢者による事故は増えているはず」という意識が植え付けられ、それを証明する情報ばかりを探すという動きは、少なからずあるのではないかと思っています。以前見かけたニュースで「高齢者が運転していて起こった事故」ではなく「高齢者が遭遇したすべての事故」の件数のグラフが使われていたのも、確証バイアスによるものかもしれません。

論説文や白書などでも、時々確証バイアスの影響を受けているものを見かけることがあります。何かが増加傾向にあることを示したい時に、実際の統計データでは直近で減少傾向が見られてもそれを無かったことにし、移動平均線などをグラフに添えて増加傾向を強調したりします。

物事の真実を見極めるためには「確証」だけでなく「反証」も必要ですが、どうしても確証を重視し、反証を軽視してしまう傾向が人間にはあります。「やはり自分は正しかった」と自己肯定したいがために、たとえ反証につながるような事実があっても、それを無視してしまいます。
 データドリブン経営を目指すうえで、この人間の特性を意識し、真実を見ることが重要と思っています。