松田 幸裕 記
前回の投稿「「2025年の崖」を振り返る その1 ~我々は「崖」から既に落ちているのか?~」、「「2025年の崖」を振り返る その2 ~ユーザー企業とベンダー企業の関係性~」、「「2025年の崖」を振り返る その3 ~ユーザー部門と情シス部門の関係性~」では、経済産業省が2018年に公開した「DXレポート」においてキーワードとなった「2025年の崖」について、振り返りや深掘りを行いました。
「レガシーシステム脱却に向けた「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」を取りまとめました」のページにて公開されている振り返りのレポートによると、2018年に提起された課題は今も十分には解決できていないと言えそうです。本投稿で最後になりますが、その原因と思える要素について触れていきたいと思います。
レポートでの問題提起
レポートを読んでいると、ユーザー企業やベンダー企業の人材における「能力不足」が大きな課題であるように感じます。いくつか、レポートから関連する文言を抜粋してみます。
- ユーザー企業の「能力不足」に関連する文言
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- 「顧客への迅速な価値提案ができない」
- 「ユーザー企業のITに対する自律性が低下(=丸投げ体質)」
- ベンダー企業の「能力不足」に関連する文言
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- 「企業のIT全体を設計できる人材の不足」
- 「IT目線で考えるがサイロ化しがち」
- 共通の「能力不足」に関する文言
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- 「ビジネスアーキテクト・ITアーキテクト、データサイエンティストの上流人材が特に不足」
要件定義でのよくある問題
私自身も仕事をしている中で、随所に上記の問題を感じます。
ここでは、当社がよく関わるMicrosoft 365などのグループウェアを導入する際の進め方について、例を挙げたいと思います。
上流フェーズである要件定義フェーズでは、導入を委託されたベンダー企業が、ユーザー企業の情シス部門に多くのヒアリングを行います。「これはどうしますか?」、「あれはどうしますか?」、、、個別個別の項目に関する質問に対し、ユーザー企業の情シス部門が答えていく必要があるのですが、細かい質問だらけです。個別の質問の連続で、全体として辻褄が合っているのかもわからなくなってきます。情シス部門が「なんでこんな確認をするのですか?」と聞くと、ベンダー企業は「そういう設定項目があるからです。」と答えます。よくよく考えると、「導入する製品の数々の機能・設定項目から逆算し、「ここは設定する必要があるから確認しなきゃ」と思う部分を、「この設定をONにしますか?」というあからさまな表現ではまずいので、少しわかりやすい表現で確認している」ということなのだと思います。
そこには利用する組織としての「生産性向上」、「知の創出」、「コミュニケーションの活性化」などの発想はなく、要件定義は単なる「システム導入のために必要な設定項目を確認する場」となってしまっています。
なぜこのようなやり方になるのか?
このような製品の各機能から逆算して設計項目や要件定義項目を導き出す方法を、ベンダー企業もベストだとは思っていないと思います。おそらく、ベストな方法で進めるには「俯瞰する力」、「構造的に考える力」などが必要であり、そのような力を持った人材はいたとしてもごく少数のため、多くのユーザー企業への導入でその人材をアサインすることができないのではないでしょうか。このような事情があるため、「俯瞰する力」、「構造的に考える力」を持った人材がいなくてもプロジェクトを進められるようなフレームワークを作るしかなく、その結果としてできたものが「製品の各機能から逆算して設計項目や要件定義項目を導き出す方法」なのだと思っています。
なぜ「俯瞰する力」、「構造的に考える力」を持つ人材が少ないのか?
ここは賛否あるテーマですが、あくまで私が個人的に感じる2つの要因について、触れたいと思います。
1つ目は、「人間の思考が浅くなっている」ことです。
かなり前の投稿ですが、「データドリブン経営の実現にむけて その5」で、現代のインターネット社会において人間の思考はより浅くなっていて、脳の可塑性によって、人間の脳はより浅い思考をする脳へ変化していく危険性があると書きました。これが本当に起こっているのではないかと、私は感じています。何かを聞いた時に、「えっ、なんで?」とならずに「ふーん」という反応で終わる人が多くなっているように思います。何かを聞いた時に、そこに疑問や課題を感じることがなく、そこで思考を止めてしまうという習性が強くなっている、そのように感じます。
2つ目は、「役割の細分化」です。
一般的に分業は労働生産性を向上させるものとされていますが、行き過ぎると副作用が多くなり、逆に労働生産性を下げてしまうことにつながると思っています。行き過ぎた役割の細分化による問題の一つが、「担当分野が狭いことで視野も狭くなり、俯瞰する能力が培われないなど、各個人の成長を妨げてしまう」というものだと思います。私はIT屋として、ユーザー企業で導入するITにおける要件定義や設計の場に関わることが多いのですが、ベンダー企業の方々が結構な人数で会議に参加してくる場面をよく経験します。Microsoft 365など大規模なアプリケーションになると、機能ごとに担当者が異なり、参加者が5名以上になるのはよくあることです。これはこれで効率的なのかもしれませんが、「俯瞰する力」、「構造的に考える力」は身につかないと思います。
現在、AIが飛躍的な成長を続けています。人材不足も同時に深刻化している中ですので、「力をつけないとAIに仕事を奪われて、職を失う」という心配は少ないと思いますが、AIでできてしまうことしかできない人は、仕事の選択肢としては狭まるのではないでしょうか。だから、私たち一人ひとりが上記のような実態を認識し、今後自身がどこに向かっていくべきかを真剣に考えなければいけない、そんな時代に来ていると思います。そんなことを言っている私自身も他人事ではないと思っていますので、これからも成長していくために、広く、深く、思考を止めずに行きたいと思っています。
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