松田 幸裕 記
前回の投稿「「労働生産性の国際比較2024」から今を読む その1 ~日本の労働生産性が下がっている!?~」では、日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2024」を題材に、日本の労働生産性の現状について触れました。
日本の労働生産性が下がっているとは言えませんが、他国と比較して上がっていないとは言えるようです。今後は「物価上昇 → 賃上げ圧力 → 賃上げ → 価格転嫁 → 物価上昇 → …」というスパイラルの中でGDPなどの数値は上がっていくかもしれませんが、この労働生産性の国際比較では購買力平価なども考慮しているため、GDPなどの数値が上がっても労働生産性が上がったとみなされるわけではなく、やはり本質的な労働生産性の向上が必要になります。
労働生産性が上がらない原因、上げるための方法を挙げると、多くの要素が思い浮かびます。その中には「これは自分自身ではどうにもできないよ…」というものも多く、諦めの感覚も醸成されてしまうかもしれませんが、一個人のみでできる対策だけを挙げても思考が狭くなりすぎるため、広めに論じたいと思います。あくまで私個人の感覚で挙げているため、「それは違うと思う」と感じられる人もいると思いますが、皆様がより深く考えるきっかけとしてこの投稿の内容をお使いいただけるだけでも嬉しいと思っています。
労働時間で測る労働
日本における労働に関する法律である労働基準法では、労働の大きさは基本的に労働時間で測ります。基準である1週間40時間で雇用契約を結んだとして、それより多く働けば多く働いた時間分残業代が支払われます。労働者が使用者の指揮命令下にある時間が「労働時間」として扱われ、そこに「労働の質」は関与しません。てきぱき仕事をこなしても、だらだら仕事をしても、1時間は1時間です。
日本にいる限りどうにもならないことかもしれませんが、この事実を受け入れたうえで、企業としては極力成果主義や能力主義での評価・報酬制度に持っていくことが重要だと思います。長年にわたる年功序列の価値観が染みついている中ですが、「さほど頑張らなくてもそれなりに給与をもらえる」という状況を無くすことで少なからず労働生産性の向上に寄与するのではないかと思っています。
(この問題と関連して、「法律で守られる雇用」という問題もあると思っていますが、こちらは更に日本にいる限りどうにもならないことであるため、触れないこととします。)
意思決定・合意形成
何かを決めたり、何かを前に進めたりする時、そのための提案や上申で嫌に時間がかかると感じたことはありませんか?時間をかけて資料を整理して課長にレビューを求め、そこで多くの指摘を受けて資料を修正し、さらに上の部長へ持っていくとまったく違う指摘を受けてしまう、というようなことはよくあると思います。上司は上司で、「何か言わないと」、「気の利いたことを言わないと」という意識が芽生えるため、時には「その指摘、どうでもよくない?」と思ってしまうような建設的でない指摘も混ざってきます。
意思決定や合意形成には、改善できそうな多くの課題が眠っていると思います。本投稿では細かく触れませんが、以前の投稿「意思決定-合意形成を最適化するために」でまとめているため、気になる方は読んでみてください。
役割の細分化
私はIT屋として、ユーザー企業で導入するITにおける要件定義や設計の場に関わることが多いのですが、SIerの方々が結構な人数で会議に参加してくる場面をよく経験します。プロジェクトをまとめる人、その補佐として議事録などをまとめる人、個々の機能の担当者など、5名以上になるのはよくあることです。
一般的に分業は労働生産性を向上させるものとされていますが、行き過ぎると副作用が多くなり、逆に労働生産性を下げてしまうことにつながると思っています。上記のように連携のためのコストがかかったり、課された領域で過剰に動きすぎてしまったり、役割と役割の間を拾う人がいなくなったり、視野が狭くなり各個人の成長を妨げてしまったり、といろいろな障壁が出てきます。
個人的な感覚ですが、多くの企業では役割が細分化されすぎている気がしています。役割が細分化されすぎると副作用が多く生じてくるため、気を付けたいところです。
考える力
私個人としては、やはりここが最も大きな話だと思っています。いまやっていることを「そういうもの」として流して日々を過ごしていると、課題も認識されず、改善されることもなく、個人の生産性も組織の生産性も高まりません。個人として、組織として、この意識を変えていく必要があると思っています。
以前の投稿「データドリブン経営の実現にむけて その5」で、現代のインターネット社会において人間の思考はより浅くなっていて、脳の可塑性によって、人間の脳はより浅い思考をする脳へ変化していく危険性があると書きました。このような可能性があることを認識し、「考える力」を磨いていくだけでも、未来は大きく変わっていくのではないでしょうか。これより上に挙げた各課題も、考えて行動していかなければ変わっていくことはないのですから。
以上、労働生産性につながるいくつかの要素を挙げてみました。「言うは易く行うは難し」ですね…書きながら、そう思ってしまいました。当社も、これらの課題と日々悪戦苦闘しています。でも、「難し」であり「不可能」ではないと思っています。各自、各社で考えていき、労働生産性を上げていきたいですね。