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従業員エクスペリエンス プラットフォーム(EXP)のすすめ

松田 幸裕 記


ここ数年で、「従業員エクスペリエンス プラットフォーム(EXP:Employee Experience Platform)」という分野の製品が出てきています。本投稿では、「従業員エクスペリエンス」やそのプラットフォームであるEXPとは何なのか、その意義や難しさなどについて触れてみたいと思います。

「従業員エクスペリエンス」とは?

「従業員エクスペリエンス」は直訳すると「従業員の体験、経験」になります。企業など組織において従業員が体験する様々なことを示します。入社と退職、その間の成長、そのための目標設定や学習、人と人とのつながり、福利厚生、企業へのエンゲージメントなど、従業員の「体験」に絡む多くの要素が含まれます。

少し話がそれますが、「顧客」においては「CRM(顧客関係管理)」から「CXM(顧客体験管理)」へという流れがありました。顧客ニーズが多様化する中、顧客との接点を単純に管理するのではなく、顧客が持つストーリー、体験などを見ていかなければいけない、という動きです。

「従業員エクスペリエンス」も同じような流れだと思っています。従業員を「HR(人的資源)」という形で扱うのではなく、多種多様なニーズや価値観を持った、心を持った人間として捉える、という考え方に変わってきているのだと思います。

「従業員エクスペリエンス  プラットフォーム(EXP)」とは?

上記の「従業員エクスペリエンス」のためのプラットフォーム、というかツール群のようなものがEXPということになります。「EXM(Management)」ではなく「EXP(Platform)」ですので、「管理ツール」のみでなく従業員の「体験」のための基盤なども含まれています。

なかなか表現が難しいですね。以下を読んでも難しさは拭えないと思いますが、参考までにいくつかの企業で「従業員エクスペリエンス」、「従業員エクスペリエンス プラットフォーム」を説明していますので、参考にしてください。

従業員エクスペリエンス プラットフォームとは? | Microsoft

従業員エクスペリエンスとは | Oracle

従業員エクスペリエンスとは?| SAP

Microsoft Vivaからツール群のイメージをつかむ

例として、Microsoft Vivaを挙げてイメージをつかんでみたいと思います。VivaはMicrosoft社が提供するEXPのブランド名です。このMicrosoft Vivaというブランドの中に、以下のような多くのツールが存在します。

  • 従業員のコミュニケーションとコミュニティ
    • Viva Connection:どこで仕事をしていても従業員が組織とつながりを持つことができるためのツール
    • Viva Engage:元「Yammer」と呼ばれていた、自己表現を促し帰属意識や気づきの醸成に役立つ社内SNSツール
    • Viva Amplify:社内向けキャンペーンの管理、発行、レポートを一元化し、すべての従業員へのリーチを促進するツール
  • ワークプレイス分析とフィードバック
    • Viva Insights:データに基づく実践的なインサイトを活用し、組織の生産性とパフォーマンスを高めるツール
    • Viva Glint:組織全体のアンケートで従業員エンゲージメントを可視化し、推奨アクションも提示するツール
    • Viva Pulse:従業員フィードバックでチームの状態を可視化し、改善のための推奨事項も提示するツール
  • ゴール設定と管理
    • Viva Goals:効果的なゴール設定や目標・成果の管理を支援するツール
  • 学習とナレッジの管理
    • Viva Learning:学習をシームレスに業務の流れに取り込み、成長と能力開発を促すツール

こうして実際にツールを並べてみると、イメージが湧いてきますね。

EXPの今後

以前の投稿「Microsoft Viva Engage発表!その背景を考察する」でも触れましたが、これらのツールは「使わなくても業務は回る」という性質を持っているため、導入しただけ活用が進み、従業員体験がより良くなるということはありません。いくつかの点でしっかり考えたうえで導入、活用していくことが必要になります。

まず、「どのような組織にしていきたいのか?」という点です。例えば、「うちの会社は個人成果主義とし、即戦力を求めて中途採用し個々の力によって成果をあげていく」という組織の場合、上記のViva Goalsなどはフィットしますが、Viva ConnectionやViva Engageなどつながりを促進するツールは合わないかもしれません。組織の方向性を改めて見つめなおし、その方向性に合ったツールの選定が必要です。

また、このプラットフォームは「心を持った人」が利用するという点も重要です。先ほども触れた通り、これらのツールは「使わなくても業務は回る」という性質を持っているため、「さあ、これを使え!」と言っただけでは活用されず、効果も出ません。

人間の心は非常に難しいものです。「心理学」という学問が成立してはいるものの、例えばフロイト、ユング、アドラーなど心理学の権威も考え方がそれぞれ異なっていて、何が正解なのかは実はわかっていない、哲学に近い学問だと思っています。「目標設定は本当に人のモチベーションをアップさせるものなのか?」、「承認欲求は人間における健全な欲求なのだろうか?」、「褒めるのと叱るのはどちらが正しいのか?もしくはどちらも正しくないのか?」など、人の心の動きを改めて考え、適切と思えるツールを選定する必要がありそうです。

組織は心を持った人の集まりです。心を持った人が集まった組織をより良くしていくために、組織の方向性や人間心理をしっかり考え、適切なツール選定を行ってみてください。