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「DX白書 2023」から今を読む その2 ~日本のIT人材における課題~

松田 幸裕 記


IPA(独立行政法人情報処理推進機構)から「DX白書 2023」が公開されました。前回の投稿「「DX白書 2023」から今を読む その1 ~日米の業務におけるサイクルの違い~」に続き、本投稿でもDX白書の内容に触れてみたいと思います。

前回の投稿でも書きましたが、アンケートにおけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の認識が一致しているのかは少々疑問を感じるため、DXの取り組み状況などについてのアンケート結果を素直に受けてコメントすることは避けたいと思っています。本投稿では「DXを推進する人材」を「IT人材」とみなして、IT人材不足や人材育成について考察してみたいと思います。

IT人材の「量」と「質」の不足

「DXを推進する人材の「量」の確保」、「DXを推進する人材の「質」の確保」というアンケート結果があります。

DXを推進する人材の「量」の確保

DXを推進する人材の「質」の確保

IT人材が「量」「質」ともに不足している傾向は、継続しているようです。本白書に書かれているように、DXに取り組む企業が増加し、人材獲得のニーズが増えてきているという背景もあるかもしれませんが、別の観点で思うところもあります。

私自身、自社のみでなく他社でのIT人材採用にも関わっている関係上、履歴書・職務経歴書の確認や採用面接を多く行っていますが、企業における人材の育成に課題があると感じることが多くあります。自身の能力の深さや広さを拡大することにつながりにくい単純作業の業務に長期間従事し、成長が妨げられてしまっている人、あるいはIT人材としての土台となるスキルの蓄積をしないまま、ベンダーコントロールなど調整事に従事している人など、適切に成長できていないのではないかと感じる場面があります。

言い過ぎかもしれませんが、企業としてIT人材の育成を適切に行えていない現状があり、それがIT人材不足という形で自分たちの首を絞めてしまっている、そんな気もしています。

IT人材の育成

では、IT人材がどのように育成されているのかを、「DXを推進する人材の育成方法」というアンケート結果から見てみたいと思います。

DXを推進する人材の育成方法

これを見ると、日本は米国と比較して人材育成の仕組みに多くの課題があるように思えます。研修や社内でのナレッジ共有など育成方法はいろいろありますが、そのすべてにおいて日本は米国と比較して「実施・支援なし」の割合が多くなっています。

米国では人材の流動性が高く即戦力となる人材を求めるため、自社で育成という意識は低いのではないかと感じてしまいがちですが、このグラフを見る限り人材育成はしっかりと行われているように見えます。自社から他社へ転職してしまうという危機感が大きいため、成長できる環境を用意することが重要なのかもしれません。逆に日本では人材の流動性が低く自社で育てるというイメージが強いですが、このグラフを見る限り人材育成に課題があるように思えます。推測になってしまいますが、自社から他社へ転職してしまうというリスクが米国と比較して低いため、成長できる環境整備の重要性が高くなっていない、という可能性もありそうです。

IT人材確保の方法

続いて、「DXを推進する人材の獲得・確保」というアンケート結果がありますので、見てみたいと思います。

DXを推進する人材の獲得・確保

これを見ると、米国では外部委託やリファラル採用(自社の社員から友人や知人などを紹介してもらう手法)など、外部の即戦力となる人材を見つけ活用する、という傾向に見えます。一方で、日本では「社内人材の育成」、「既存人材の活用」など、内部人材の活用に比重を置いているように見えます。

これらをまとめると、日本においては「IT人材不足が深刻化している。対策として内部の人材の育成に重点を置くべきだが、現状ではそれが十分にできていない」というように見えます。あくまでDX白書の内容を見ての私の仮説ではありますが、各社にてIT人材の採用や育成を考える材料に少しでもなれば幸いです。