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価値を示しにくい領域のIT投資とどう向き合うか?

松田 幸裕 記


またまた新型コロナウイルスの波がやってきましたね。徐々にメディアの報道も多くなってきていて、検討を保留してしまったと思われる2類と5類の話なども出てきています。

新規感染者数が前週より減っていた状態から、「先週より増えるようになってきた」という兆候が見えてきたタイミングで、「はしゃぎすぎず、感染対策を適切に行って、数週間前と同じレベルで落ち着いて行動しよう」と周知し、そういう心構えを多くの人ができれば、このように増えることはないと思うのですが、、、人間というのは難しいものですね。

本題に入ります。日頃様々な領域のITに携わる中で、「IT導入の効果を示しやすい」ものと「IT導入の効果を示しづらい」ものがあると感じたことはありませんか?

本投稿では、企業で導入され利用されるITを、「IT導入の効果を示しやすい」ものと「IT導入の効果を示しづらい」ものとで分け、それぞれの特徴について考えてみたいと思います。

「IT導入の効果を示しやすい」ものと「IT導入の効果を示しづらい」ものの例

「IT導入の効果を示しやすい」ものとしては、業務システムが挙げられます。定型の業務プロセスを合理化する中で業務システムが使われますが、導入することによって「X人で1日Y件の処理ができるようになり、効率化につながる」、「今まで月にX件発生していた、ミスによる損失がなくなる」などが数値的に表現しやすく、効果を示しやすいと言えます。一般的に、業務効率化・合理化は効果を数値化しやすいものです。

一方、「IT導入の効果を示しづらい」ものとしては、例えばCRM(Customer Relationship Management)があります。顧客との関係性や接点となる情報を管理し活用することで、顧客ニーズの把握、顧客満足度の向上、売上の向上などの効果が見込めますが、「それでいくら売上が増えるの?」、「売上が上がったのは本当にCRMのおかげ?」と言われてしまうと、根拠のある数字を出すのは困難です。この種のものは、CRMのみでなく例えば「セキュリティ」、「社内SNS」などいろいろあります。(セキュリティに関しては、セキュリティに無頓着でいられた一昔前と比較すればかなり導入の効果を示しやすくはなりましたが。)

労働生産性との関係

生産性は、「生産性 = 産出 / 投入」という式で示されます。分母である投入を減らし、分子である産出を増やすことによって、生産性が高まることになります。

企業活動における労働生産性という観点で考えると、分母である投入を減らすのは「業務効率化」や「コスト削減」であり、分子である産出を増やすのは「組織力向上」や「知識創造」、「イノベーション創出」などと考えることができます。

さらに、「IT導入の効果を示しやすい」ものと「IT導入の効果を示しづらい」ものを労働生産性の要素と照らし合わせると、投入の削減である「業務効率化」や「コスト削減」は「IT導入の効果を示しやすい」ものに該当し、産出の増加である「組織力向上」や「知識創造」、「イノベーション創出」などは「IT導入の効果を示しづらい」ものに該当すると言えます。

労働生産性を高めるために、つい私たちは効果を示しやすい「投入の削減」の方に目が行きがちですが、「産出の増加」の方も同様に重要な要素であることを忘れないようにしなければいけません。

「業務効率化・コスト削減」に目が行きがちな日本

以前の投稿、「「情報通信白書 令和3年版」から今を読む その3 ~ITによる業務効率化の今~」で、総務省の「令和3年版 情報通信白書」の中にある「デジタル・トランスフォーメーションに取り組むことによる具体的な効果」という話に触れました。

これによると、デジタル・トランスフォーメーションによる効果として日本では「業務効率化・コスト削減」の割合が他国より高く、「製品・サービス」や「ビジネスモデル」、「顧客満足度」などに関連する効果の割合が低いことがわかります。

先ほど「つい私たちは効果を示しやすい「投入の削減」の方に目が行きがち」と書きましたが、この傾向は世界共通ではなく、日本の特徴のようですね。

「業務効率化・コスト削減を中心にITを活用する日本」から脱するために

日本では「PDCA」を刷り込まれて育ってきたためかもしれませんが、計画・企画が非常に重視され、計画時に「これを導入することによってこういう効果がある」と説得力のある数字で説明できるものだけが導入を許可され、そうでないものは計画より先に進むことができない、ということもあるかもしれません。しかし、このままでは「業務効率化・コスト削減を中心にITを活用する日本」から脱することはできません。

日本も業務効率化やコスト削減の領域だけでなく、顧客満足度向上、売り上げ向上、リスク低減など数値的な予測が難しい領域にも積極的にIT投資をしていく必要があります。「リーンスタートアップ(コストをかけずに最小限のものをつくり、その効果を判断し、それを繰り返しながら徐々に充実させ、成功率を高める方法)」や「リアルオプション(不確実性のある将来において、柔軟性を持つプロジェクトを高く評価する考え方)」などのように、効果が見えにくいIT投資を効果的に進めていくためのヒントは各所にあります。「いくらコスト削減できるの?」などの質問にひるんで無理やり数値化するのではなく、数値化しにくいことを受け入れ、初期投資を抑えた導入方法を提案するなど、工夫して進めていく必要がありますね。

「IT導入の効果を示しづらい」領域は効率化などと比べて複雑で効果を出すのも難しいため、「他社も導入しているようだから」など安易な理由で導入してしまうと失敗する確率も高まります。失敗しないためには、自社における現状の課題、最新の各種動向や理論、自社が目指す方向、導入による効果などを明確にしたうえで適切に意思決定し、導入することが重要です。また、この領域は「使わなくても業務は回る」という性質を持っているものが多く、導入しただけでは効果が出ない場合も多いです。導入して終わりではなく、しっかり活用促進をして効果を可視化し、改善策を講じる、というサイクルもセットで進めていくことをお勧めします。