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パーパス経営とIT活用の関係

松田 幸裕 記


ハーバード・ビジネス・レビュー 2022/6号は、「パーパス経営」の特集でした。パーパスとは、組織や企業の「存在意義」、「私たちはなぜ事業をするのか」などを意味する言葉で、今までの「ミッション」、「ビジョン」、「バリュー」などに代わって用いられるようになってきたものです。今回の号はパーパス経営を適切に実行する方法について触れられている内容が多く、「なぜ今、パーパスが必要なのか?」というそもそもの話はあまり書かれていません。ハーバード・ビジネス・レビューでは過去にも2020/10号の「パーパス・ブランディング」、2019/3号の「パーパス」で特集されていますので、そもそもの話からたどりたい人はぜひこれらの特集もご覧ください。

本投稿ではパーパス経営について、その難しさ、そしてITとの関係について触れていきたいと思います。

パーパス経営の難しさ

繰り返しになりますが、パーパスとは組織や企業の「存在意義」、「私たちはなぜ事業をするのか」などを意味する言葉です。各社にてパーパスの定義が進んでいますが、今までも「ミッション」、「ビジョン」、「バリュー」、「企業理念」などがあり、企業としてこれらを掲げてきましたよね。これらを掲げてきた多くの企業では、企業Webページに載せたりオフィスの壁に貼ったりしているものの、全員の心に浸透しているとは言えないでしょう。そのような企業が「ミッションでは効果がないから、パーパスを定義しよう」という形で定義しても、おそらく何も変わらないと思います。

ミッションなどと同じく、パーパスも壁にかけているだけではだめで、その言葉に嘘偽りがないように経営層が振る舞うということが重要ではないかと思っています。例えば、パーパスでは「社会の平和」的なことを謳っているのに、日常業務の中でメインで聞こえるのは「売り上げ必達!」という号令になっているというのはよくありそうですが、これではパーパスを掲げても何の効果もありません。

以前ある書籍に書かれていた私が好きな言葉で、「理念が浸透すればマニュアルはいらない」というものがあります。「私たちの事業はこのためにあるんだ。社会をこうしていきたいんだ。」という企業として共通の思いがあり、経営層の行動や言動もその思いと一致し、その噓偽りのない思いが全員に浸透していれば、あとの細かい部分は自律した各自で考えて柔軟に行動すればよくなります。共通の思いがあり、その思いを中心に皆が自律して活動する、この理想に近づくためにパーパスはあるのではないかと思っています。

パーパスとITの相乗効果

パーパスとITとは様々な観点で関連していますが、ここでは一つの観点として「使わなくても業務は回るツール・機能」について触れたいと思います。

例えば「社内SNS」と呼ばれるツール。MicrosoftのYammer、GoogleのCurrentsなどが社内SNSにあたります。この社内SNSは適切に活用できれば組織力向上などにつながる、非常に有益なツールです。しかし、これを積極的に使えている企業は少ないのが現状です。

この手のツールは、「使わなくても業務は回る」という性質を持っています。各自に与えられたタスクをこなすだけであれば、コミュニケーションのためにメール、電話、チームコラボレーションツール、ドキュメント管理ツールなどを使うことで事足りるため、社内SNSなど必要ありません。それを超えて、「会社をよりよくしたい」、「自分が担当している顧客のみでなく、多くの顧客により満足してもらいたい」、「より良いものをつくりたい」などを考えた時に、通常のタスクをこなす時の範囲を超えた、人との緩い交流が必要となります。その緩い交流では、広い範囲のメンバーでモヤっとした相談もできる、社内SNSが最適です。ここで暗黙知の交換を活性化させ、良質な形式知の醸成につなげることで、組織の知が蓄積され続け、組織力が向上していきます。

このような、各自に与えられたタスクの範囲を超えた行動は、パーパスが背中を押してくれることでなされます。そして社内SNSなどのツールがその行動をサポートするという関係が成り立ちます。社内SNSのようなツールを導入する際は、パーパスなど「共通の思い」があって初めて機能することを意識する必要があります。

ちなみに弊社では、以前社内で話し合ってミッションを定義しましたが、パーパスは定義していません。私の本音としては、ミッションでもパーパスでも特に変わりはなく、前述した「共通の思い」を皆で持つことが大切と思っているため、パーパスを定義することよりも「共通の思い」を互いに胸に刻むことを重要視して、日々みんなで喧々諤々話し合って業務改善を続けています。