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マイナンバーの重要性について再考する ~マイナンバーは極秘情報なのか、それとも手軽に使うべき情報なのか?~

松田 幸裕 記


18歳以下の人への計10万円の給付について、混乱が続いているようですね。「クーポンにすることで莫大な費用がかかる!」、「みんな現金がいいと言っているのになぜクーポンにするのか!」など多くの指摘がされています。給付の目的次第ではクーポンも有効な手段となるため、「みんな現金がいいと言っているから現金にすべき」という意見は少し短絡的な気もしますが、そもそもは目的が不明確なまま議論している点が問題なのかもしれませんね。

皆さんもビジネスで大小様々な合意形成を行っていると思いますが、議論が発散しそうな問題の場合は、概ね以下のような内容を体系的に整理したうえで議論しますよね。

  • 現状の課題は何か?
  • 目的は何か?(どの課題をどのくらい解決したいか?)
  • どのような手段があるか?
  • それぞれの手段における目的達成度や実現容易性、費用、課題などは?

今回の給付の問題も、このように整理して議論されていればよいのですが…。国民から集めた貴重なお金ですから、大切に使ってほしいと願うばかりです。

本題に入ります。2016年1月から開始され、国民一人ひとりに12桁の番号を付けるというマイナンバー制度。ワクチン接種の記録管理にマイナンバーを使うべきという話が出たり、マイナンバーカードを健康保険証として利用可能にするなど、マイナンバーやマイナンバーカードの利用を活性化させる動きが見られます。

一方で、「マイナンバーは非常に重要な個人情報」、「企業で従業員のマイナンバーを取り扱うときは厳重に管理しましょう」など、パスワードなどと同じくらいの厳重な取り扱いを推奨しているようにも思えます。

「大切なものだから厳重に管理すべき」なのか、「便利なのでもっと手軽に使いましょう」なのか、わからない状況ですね。私はこの辺りの専門家ではありませんが、事実としてマイナンバーがどのような位置づけになっているかを再確認し、どのように取り扱うべきなのかを考えてみたいと思います。

マイナンバーはとても重要な情報

一般的に言われる個人情報は「個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律)」で各種の保護措置が定められています。一方、マイナンバーは「特定個人情報」と位置付けられており、個人情報保護法ではなく「番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)」で保護措置が定められています。「特定個人情報」というくらいですから、もちろん一般的な個人情報よりも厳格な措置が設けられています。

各企業では従業員のマイナンバーを管理する必要がありますが、「マイナンバー管理システム」なども多く販売されており、「企業におけるマイナンバー管理は他の個人情報よりも厳重に管理しましょう」という空気が感じられます。

管理方法は一般的な個人情報と大きな違いはない

しかし、個人情報保護法と番号法の違いを見る限り、漏洩させてしまった際の罰則や手続きは異なるものの、安全管理措置については大きな差がありません。

個人情報保護委員会事務局が公表している「「個人情報」と「特定個人情報」 ~正しい理解のために~」という資料に、そのことがわかりやすく記されています。細かい話は割愛しますが、「どのように管理すればよいか?」という観点では個人情報も特定個人情報も大きな差異はないことがわかります。

ゼロベースでマイナンバーの位置づけを考えてみると?

例えば、珍しい名前のため同姓同名の人が一人もいない人は、結構いると言われています。その人たちのフルネームはそれだけで「自身を示すユニークな(唯一の)情報」となり、マイナンバーと同じレベルの情報になりますね。ただその人達はフルネームを「自身を示す情報」として名刺に書いて渡したり、郵便物の差出人として記したりと、普通に利用しています。

これは、「自身を示すユニークな情報」が漏れても大変なことになるわけではないことを表しています。この情報が単体で漏れても大変なことになるわけではなく、「自身を示すユニークな情報」と紐づいて知られたくない情報を知られてしまうようなことがあった場合に初めて問題になる、ということです。マイナンバーを絶対に人に知られてはいけないというわけではなく、マイナンバーと紐づいた知られたくない情報を知られないようにすべき、ということになります。

マイナンバーカードを健康保険証として使えるということは?

2021年10月から、徐々にマイナンバーカードを健康保険証として利用できるようになります。これにより「初めての医療機関でも、特定健診情報や今までに使った薬剤情報が医師等と共有でき、より適切な医療が受けられるようになる。」、「マイナポータルで自分の特定健診情報を閲覧できるようになる」などの恩恵を受けられるようになるそうです。

「カードが一体化される」ということがクローズアップされているように思えますが、それより、「複数の医療機関の間で、検診情報や今までに使った薬剤情報などを共有できる」という話の方がメインであり、マイナンバーはあくまでわき役で「情報を検索するキーとしてマイナンバーが使われる。」、「自身のマイナンバーを証明するためにマイナンバーカードが使われる。」というだけではないかと思っています。

私はこのマイナンバーと健康保険証の話を聞いた時、「国民は複数の医療機関が自分の医療関係の情報を共有し合うことについては何も言わないんだな…」と少し不思議に思いました。こういうことに対しては「プライバシー的に問題!」と騒がず、一方で新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」の時には「プライバシー的に問題!」と騒ぎ、さらに一方で昨年の全国民一律10万円給付では、マイナンバーと銀行口座が紐づけられても何も騒がない、という状況から、個人情報やプライバシーに関する意識のあいまいさに疑問を感じています。

もしかすると騒ぐか騒がないかは国民ではなくメディア次第なのかもしれませんが、、、どちらにしても「どこまでが善でどこからが悪なのか」を各自でしっかり考え、自身の線引きを明確化しておきたいですね。