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「働き方改革」を再考する その2 ~日本の労働生産性は本当に低いのか~

松田 幸裕 記


前回の投稿「「働き方改革」を再考する その1 ~働き方改革の現状を覗く~」において、日本の企業における働き方改革の現状について触れました。労働時間の短縮、休暇取得の推進などが積極的に進められている一方で、「人手不足が悪化している」というマイナス面も見え隠れしていました。働き方をよりよくしていくために単純に労働時間を短縮してしまうと、やらなければならない仕事が溜まってしまうだけです。よって、生産性の向上も同時に考えていく必要があります。

本投稿では、日本の労働生産性の現状について探ってみたいと思います。

よく参照されるものとして、公益財団法人 日本生産性本部が公開している生産性関連の情報があります。この中にある「労働生産性の国際比較 2018」を見ていきます。
 この情報を数字的な面で要約しますと、「日本の労働生産性は長年にわたり、OECD加盟36か国中20位あたりに位置し、主要先進7か国では最下位にいる」というものです。これだけを見ると、日本の労働生産性は低いと言えますね。しかし、じっくり内容を見てみると、別のことも言えそうな気がしています。

バブルの頃は、少しだけ生産性が高かった?

「(図4)主要先進7カ国の就業者1人当たり労働生産性の順位の変遷」を見てみると、1993年から2017年の25年間、最下位が続いています。しかし、その前の数年間は英国よりも高く、OECD内でも15位となっています。バブルの頃は、今より少しだけ生産性が高かったのでしょうか?
 この「就業者1人当たり労働生産性」の算出方法は、「GDP ÷ 就業者数」です。就業者1人あたりのGDPを「労働生産性」としているため、例えば「1人でがむしゃらに残業して働く」という行為を皆で行えば、それだけ「就業者1人当たり労働生産性」は上がることになります。
 「24時間戦えますか?」が流行語になっていたバブルの時代ですので、この15位は皆ががむしゃらに働いた結果なのかもしれませんね。

時間あたりの生産性は高まっている?

前述の通り、バブルの頃に「就業者1人当たり労働生産性」が少しだけ高かったのは皆ががむしゃらに働いた結果なのかもしれませんが、、、日本の年間労働時間は2,000時間を超えていた昔と違い、1,700時間強に削減されています(非正規労働者込み)。日本は他国と比較して短時間労働者の割合が高いこともこの数値の変化に影響しているようですが、そう考えると、「就業者1人当たり労働生産性」で最下位でも、「時間当たり労働生産性」は向上しているのではないでしょうか。
 「(図9)主要先進7カ国の時間あたり労働生産性の順位の変遷」を見てみると、カナダが18位、英国が19位、そして日本が20位です。思ったより時間あたりの労働生産性の順位が高くないことは残念ですが、、、接戦になっているのでもうすぐ夢の最下位脱出かもしれませんね。

生産性の上昇率も劣っている?

「(図11)OECD加盟諸国の時間当たり実質労働生産性上昇率」を見ると、日本は23位に位置しています。この順位だけを見ると、日本は労働生産性の上昇率も低いと言えてしまいます。しかし、発展途上の国々とある程度成熟してしまっている国々と混在している中で上昇率を見ても不公平ですね。
 主要先進7か国のみで見てみると、カナダとドイツは上昇率が高いですが、米国は22位、フランスは26位、英国は29位、イタリアは30位と低い位置にいます。
 日本の生産性の上昇率は、ほかの先進国と比較して劣っていないと言えそうです。

以上のように、数字だけでシンプルに見ると「日本の生産性は低い」と言えてしまいますが、時間あたりの生産性は他の先進国と接戦になっており、生産性の上昇率も負けていないことがわかります。今後の傾向について、引き続き注視していきたいですね。

最後に、この「労働生産性の国際比較 2018」で触れられている「労働生産性」というのは、設備投資やIT投資の量、製品やサービスの需要、顧客が求める品質の高さなどによっても影響を受けるものであり、決して「人の能力」を示すものではありません。「日本人の能力や業務推進力は他の先進国より劣る」というわけではないため、自信を持って日々精進していきたいですね。