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「情報通信白書 令和3年版」から今を読む その2 ~企業ITへの向き合い方~

松田 幸裕 記


新型コロナウイルスの感染者数が予想以上に減り、全国で緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が解除されました。人の心のゆるみ、そこからくる行動の変化が感染者数に影響を及ぼすという傾向は消えていないため、気を付けて行動していきたいところですね。

数週間前の話ですが、世田谷区から「新型コロナウイルス感染症の後遺症についてのアンケート調査結果」が公開されました。個人的にはかなり衝撃的な事実だったのですが、回答者の48%が「後遺症がある」とのことです。後遺症がある人の方がアンケートに回答する割合が高いと考えると、実際の数字はもう少し低いとは思いますが、それでも結構な割合で後遺症がある事実に驚いています。同時に、このような重要なデータが今まであまり採取されておらず、今になって出てきたことにも驚いています。このような情報をしっかり収集して公開することにより、ワクチン接種の促進にもつながりますし、緩んでいる人たちもより気を付けて行動するようになるのではないか、と感じるのですが・・・。

本題に入ります。前回の投稿「「情報通信白書 令和3年版」から今を読む その1」では、総務省より公開された「情報通信白書 令和3年版」を題材にして、日本におけるデータ活用について考察しました。前回の投稿でも書きましたが、本編は400ページを超えるボリュームで、貴重な内容がたっぷり詰まっています。また、情報通信を俯瞰して眺めたうえでの深い洞察もされており、とても勉強になるため、ぜひ本編を読んでみることをお勧めします。

本投稿では、この情報通信白書からいくつかのポイントをピックアップし、企業のIT活用状況と今後のあるべき姿について考察してみたいと思います。

デジタル競争力ランキング

国際経営開発研究所という機関が公表している「デジタル競争力ランキング」というものがあります。各国のデジタル競争力を「知識」、「技術」、「将来への備え」という要素で分類し、比較しています。

デジタル競争力ランキングにおける我が国の順位の推移

細かい点はぜひ本編の説明を読んでいただきたいですが、総合的に日本のデジタル競争力が低下しているようで心配ですね。競争力が低下している理由として、本編では以下のような要因が挙げられています。

  • ICT投資の低迷
  • 業務改革等を伴わないICT投資
  • ICT人材の不足・偏在
  • 過去の成功体験
  • デジタル化への不安感・抵抗感
  • デジタルリテラシーが十分ではない

これらの要因についてはすべて納得感がありますが、別の観点で、個人的に感じることがあります。それは、上記「業務改革等を伴わないICT投資」に近いかもしれませんが、「IT導入の目的が企業の成長や発展に向けられていない」というものです。現在も各企業で多くのIT導入が進められていますが、導入しているプロジェクトメンバーの意識はどうしても「ITを導入する」こと自体に向かってしまい、手段が目的化されてしまっている場面が見受けられます。IT導入のための各種の行為が「ITで価値を創出する」ためではなく「ITを導入する」ために行われているように見えます。

過去の投稿「JUAS 企業IT動向調査報告書2021から今を読む その3」、「2021年、ITを俯瞰する その2 ~なぜクラウド化が進んでもSI費用は下がらないのか?~」などで、このことに関係する話にも触れていますが、この根深い問題については今後も考えていかなければいけないと思っています。

IT投資

日米のIT投資額の推移がグラフで表現されています。

日米のICT投資額(名目)の推移

これを見ると、20年強で米国のIT投資額は3倍以上に増加していますが、日本のIT投資額はほぼ変わっていません。

前述のとおり、私は個人的にIT導入の目的が企業の成長に向けられていないように思います。結果、ITを導入したことによって何か大きな効果が見えるわけでもなく、そうなると投資対効果があると感じられないことへの投資は減らされるため、IT投資額も伸びないという結果になります。

ITで価値を創出するという意識の欠如が、いろいろな方向に負の影響を及ぼしているように思えてなりません。

ITリテラシ

いくつかのグラフで、60代以上の人のIT利用率が低いという傾向が見られています。この事実については、個人的には大きな問題とは思っていません。それよりも問題と感じることは、企業のITがそれらの年代の人たちに合わせて考えられてきていることです。よく、「うちの会社はITリテラシが低いから…」や、「この画面では難しくて上層部が理解できない…」などITリテラシの低い人たちを考慮しすぎ、最新機能をあえて見えないように隠したり、理解しやすいようにカスタマイズしたりすることがありますが、本当にこれでいいのだろうか…と感じてしまいます。

こうして挙げてみると、、、企業におけるITの課題は山積みですね。諦めずに、一歩一歩改善に寄与していけたらと思っています。